主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2024 in 佐賀
回次: 1
開催地: 佐賀
開催日: 2024/11/09 - 2024/11/10
【はじめに】 今回,腰椎圧迫骨折後にCOVID-19に感染し,自宅療養中の長期臥床により仙腸関節障害を呈し,歩行困難となった一症例を経験した。本症例に対し,理学療法を行い改善が見られたのでここに報告する。 【症例紹介】 70代女性,X-5日:自宅内にて転倒。X日:第一腰椎圧迫骨折と診断される。X+3w:COVID-19に感染し,1週間自宅療養となる。その間,1日20時間以上臥床し,右側臥位で過ごしていた。その後,再受診されるも右仙腸関節障害を呈し歩行が困難となった。X+4w(Y日):歩行再獲得のため,理学療法開始となる。 【理学療法評価】 自宅療養後,再受診した圧迫骨折受傷後4wより評価を実施した。叩打痛はなく,X-P上より第一腰椎圧迫骨折の骨硬化像が確認された。歩行時痛があり,右立脚期に右PSISの疼痛が出現し,歩行困難な状態であった。仙腸関節スコア7/9点(4点以上で陽性),ゲンスレンテスト(+),パトリックテスト(+)のため,仙腸関節障害が疑われた。前屈,後屈および片脚立位時に両ASIS間距離と両PSIS間距離が増大し,前額面における右寛骨下方回旋が生じた。疼痛緩和テストでは右寛骨下方回旋に対し上方回旋を誘導した結果,前屈NRS9→2,後屈NRS9→4,片脚立位NRS9→4に緩和した。ROM-T(右/左)では股関節内転(10/20),内旋(15/20)。筋力評価では多裂筋を含む,体幹筋全般の筋力低下が認められた。また多裂筋の走行に沿ったテーピングの施行で疼痛軽減したため,多裂筋の筋力低下が疑われた。 【治療および経過】 治療として,右殿筋群のストレッチ,右下肢外側の皮下脂肪リリース,癒着が生じていた筋間のリリース,多裂筋走行を意識した骨盤の牽引収縮訓練,ゴムチューブを利用した上肢挙上運動を実施した。Y日+5wの最終評価では,股関節内転,内旋制限の左右差が消失した。また前屈NRS0,後屈NRS2,片脚立位NRS2,歩行時NRS2と疼痛は改善し,独歩自立となった。 【考察】 圧迫骨折において,骨折後2~3wより骨硬化像が見られ,受傷後6wより圧潰変形は緩徐となると報告されている。本症例も圧迫骨折受傷後5wの時点で骨硬化像が確認された。しかし,仙腸関節障害を呈し,歩行困難となった。仙腸関節障害を呈した一因として,COVID-19感染後の長期臥床が挙げられる。長時間の臥床により,皮膚の圧迫で筋や軟部組織との癒着,滑走不全が生じると報告されている。本症例も右側臥位を長時間取り続けたことにより右下肢外側の軟部組織が癒着し,右股関節内転,内旋制限につながったと考える。その結果,前額面での右寛骨下方回旋が生じ,右仙腸関節上部が離開され仙腸関節障害を呈した可能性がある。これに対し,右股関節内転,内旋制限の改善や多裂筋を含む体幹筋の賦活を実施した。多裂筋は主に仙腸関節上部の安定性に貢献し,他の骨格筋と比較しタイプⅠ繊維が多く持久性に富むことから,持続した姿勢保持に適している。本症例においても右股関節内転,内旋制限が改善された後,多裂筋の賦活を行うことで,仙腸関節上部の離開ストレスが軽減し,歩行再獲得に寄与したと考える。今回,仙腸関節障害を呈した一因として長期臥床が挙げられた。腰椎圧迫骨折の治療において,長期臥床を取り続けることに対するリスクを考慮する必要があった。今後はそのような点も踏まえ,適度な運動やADL指導の必要がある。 【倫理的配慮】ヘルシンキ宣言に基づき,本症例には発表に関しての趣旨を説明した上で,同意を得た。