九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2024
セッションID: P6-4
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セッションポスター6 骨関節・脊髄2
首下がり症候群を呈した症例に対する姿勢アライメント改善を目指したアプローチの一考察 ~骨盤帯機能に着目して~
川野 拓海奥村 晃司羽田 清貴吉田 裕俊川嶌 眞人
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抄録

【はじめに】 後頸部の疼痛から首下がりを呈し前方注視困難となった症例に対して、頸部の局所的な治療介入のみでは十分な改善が得られなかった。そのため頸部機能障害に対して姿勢アライメントに視点を拡大し臨床推論及びアプローチを再検討した後、良好な結果を得ることができたため以下に報告する。 【症例紹介】 60歳代女性。2023年10月頃より母の介護中に突然後頸部に激痛が出現した。その後より徐々に頸部が固まるような感じがあり、歩行時に頸部が下を向き前方注視困難となり、当院受診し変形性頸椎症と診断された。既往歴は、右卵巣摘出術、腰椎椎間板ヘルニア、左卵巣摘出術。 【初期評価】頸部過屈曲を呈し前方注視困難。頸部伸展可動域は自動で-20°他動で10°、屈曲は自動他動共に70°であった。筋緊張検査は僧帽筋上部線維、肩甲挙筋、胸鎖乳突筋に過緊張を認めた。立位姿勢アライメントは水平面で頸部右回旋、体幹左回旋を呈し、矢状面では頸部前屈位で胸椎は後弯増大し、骨盤後傾で、股関節伸展、膝関節屈曲を呈していた。徒手筋力検査は頸部伸展2、股関節伸展筋力は左右共に3-、腹横筋の筋出力低下が認められた。Active Straight Leg Raise(以下ASLR)は前方圧迫で陽性であった。 【脊柱X線計測】Cervical-sagittal vertical axis(以下C-SVA)は61.8mm、腰椎前弯角(以下LL)は19.6°仙骨傾斜角(以下SS)は12.9°骨盤後傾角(以下PT)は37.3°骨盤形態角(以下PI)は51.6°であった。 【臨床推論】首下がり症候群 (dropped head syndrome:以下DHS)とは頸部伸筋郡の筋力低下に起因する症候群であり、DHSの改善には表層筋である頭板状筋や、深層筋である頸半棘筋が重要であると報告されている。本症例も頸部伸展筋群の筋力低下が認められ、介入初期は筋力強化を中心に行ったが長時間の頸部伸展位を保持することは困難であった。一時的な頸部伸展においても頸部以下の脊柱の代償が出現し、よりアライメント不良を助長する状態であった。頸部障害に対しては局所だけではなく、腰椎や骨盤帯を含めた体幹に対する介入が必要であると報告されている。本症例は過去に腹部手術を実施しており、その影響で体幹、骨盤の機能低下が存在し、さらに介護中に生じた頸部痛を継起に疼痛回避による姿勢アライメント不良が組み合わさったのではないかと考えた。また脊柱X線計測よりLL19°と正常範囲内であるが、腰椎前弯の減少が認められた。SSが12.9°と減少し、PT37.3°と増大が認められた。これらの結果からSS減少とPT増大による骨盤アライメント不良が推測され、下位腰椎からの頭位方向への運動波及が制限されることで頸部伸展時の胸腰椎の運動制限に関連していたのではないかと考えた。 【介入後6ヶ月目の評価】頸部伸展位保持は20分間可能となり、頸部伸展可動域は自動で20°、他動で30°、屈曲は自動、他動共に70°であった。徒手筋力検査は頚部伸展3、股関節伸展は左右共に3。 【脊柱X線計測:介入後6ヶ月目の評価】C-SVA:20.6mm、LL:26°SSは20.3°PTは24°PIは45.5°。 【理学療法アプローチ】介入初期は、頸部リラクゼーションと並行して頸部伸展筋力の強化を中心に行った。その後は脊柱X線所見から、SSとPTの改善を目指しL5、S1の可動域改善を行うための骨盤帯も含めた全身的なアプローチを追加して行った。 【考察】 介入6ヶ月後には、脊柱X線計測からSSが20.3°、PTが24°と改善が認められ、日常生活での頸部伸展位保持時間が20分程度まで可能となった。この要因として頸部運動の改善に加え、体幹及び骨盤帯のアプローチにより運動バリエーションの拡大と頸部機能の再獲得によるものと考える。 【倫理的配慮】

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© 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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