主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2024 in 佐賀
回次: 1
開催地: 佐賀
開催日: 2024/11/09 - 2024/11/10
【目的】 手術後の回復促進を目的とした集学的管理によるEnhanced Recovery After Surgeryプロトコルでは手術前の適正化が着目されている。今回、個別化かつ包括的なプレハビリテーションが有効であった症例について報告する。 【症例紹介】 64歳、男性。主訴:労作時呼吸困難。疾患名:低肺機能・慢性心不全。現病歴:小腸閉塞、消化管出血に対し外科的手術の方針となった。しかし、術前検査で肺機能低下を認めた為、身体機能評価を踏まえたリハビリテーション依頼があり介入の運びとなった。既往歴:小腸重積症/炎症性繊維性ポリープ、急性呼吸不全/誤嚥性肺炎、低酸素血症(在宅酸素療法)、洞不全症候群(ペースメーカー植え込み術)、右胸水貯留/慢性心不全、心房細動(アブレーション)、肺腫瘍(開胸右肺上葉切除と放射線治療後)。現症:体重34.7kg、Body Mass Index 12.3。生化学検査:Alb2.9g/dl、NT-proBNP562pg/ml、eGFR91.1、TTR10mg/dl、Hb10.8g/dl、Ht34.4%、CRP0.9mg/dl。肺機能検査:肺活量0.97L、%肺活量28.2、1秒量0.66L、1秒率75.9、拘束性換気障害。心臓超音波検査:1回拍出量21.3ml、左室駆出率48.5%、三尖弁逆流中等度、僧帽弁逆流軽度、両側胸水貯留(右>左)。6分間歩行試験:45m(1分50秒で中止,修正Borg scale 8)、リカンベントエルゴメーター負荷:20Watt(5分程度で疲労感により終了)。握力:19.9kg/16.1kg 。Mini Nutritional Assessment-Short Form:5点。J-CHS:4項目該当。SARC-F:5点該当。Geriatric 8:7点。Barthel Index(BI):70点。在宅酸素療法は安静時に1L/min、外出時に2L/min使用。理学的所見:右呼吸音減弱、両側下腿浮腫 【経過】 初診後リハビリテーション科医から主科へ胸水貯留による低肺機能・慢性心不全、低栄養の是正のため胸水と栄養のコントロールを依頼した。同日に利尿薬、経腸栄養剤開始となる。理学療法では、既往の開胸右肺上葉切除と放射線治療後による拘束性換気障害に対し胸郭柔軟性改善を目的としたストレッチや呼吸訓練を含めたコンディショニング、慢性心不全とフレイルやサルコペニア疑いに対し下肢筋力強化による運動耐容能向上を目的とした歩行やリカンベントエルゴメーターによる全身運動を行った。胸水貯留改善に伴い酸素化、心拍数が適正化され、運動耐容能が向上した。週2回15週間のプレハビリテーションの結果、6分間歩行試験290m、握力は23.7kg/20.0kgまで改善した。またBIは100点、在宅酸素療法は夜間 (1L/min)のみ使用となる。周術期合併症リスク因子の是正が図られ、腹腔鏡下小腸切除術が行われた。術後の合併症として消化管出血、心不全増悪、心房細動再発、胸水増加が認められたが、術後12病日で自宅退院となった。 【考察】 本症例における問題点は拘束性換気障害、上室性不整脈、慢性心不全、胸水貯留、栄養障害 (カヘキシア)、フレイルやサルコペニア疑いによる運動耐容能低下が挙げられた。複合的な問題点に対して低強度の運動療法を行わざるをえない状況で術前の適正化や多面的かつ個別化、包括的な介入が必要であった。今回、弊害を是正しつつ長期的な介入で運動耐容能が向上し、術後合併症は認められたものの、プレハビリテーションはリスクの低減に有効であったと推察される。 【倫理的配慮】発表に際し、本人に書面と口頭にて説明を行い、文書による同意を得た。また、ヘルシンキ宣言に沿って、 個人情報保護に配慮し、患者情報を診療録から抽出した。