主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2024 in 佐賀
回次: 1
開催地: 佐賀
開催日: 2024/11/09 - 2024/11/10
【目的】 足関節果部骨折術後症例において,固定除去直後の荷重位での背屈可動域 (Weight Bearing Dorsiflexion ROM以下,WBDROM)が,術後3か月後および6カ月後の活動制限・患者立脚型アウトカムには影響することが報告されている (Lin CW et al 2009,Hancock MJ et al 2005).そのためWBDROMの獲得は極めて重要となると考えられるが,その制限因子は明らかではない.また先行研究により長母趾屈筋 (以下,FHL)の柔軟性が低下した状態ではWBDROMが低下するとされる (Michelson J et al 2019)が,果部骨折症例を対象とした報告は我々が知る限り存在しない.そこで今回,足関節果部骨折術後症例のWBDROMとFHLの柔軟性を反映すると考えられる母趾MP伸展角度との関連を明らかにすることを目的に本研究を行った. 【方法】 足関節果部骨折術後で全荷重が可能であった症例を対象に横断的に調査した.対象内訳は男性20名女性18名 計38足 (年齢50.4±18.7歳,身長163.2±8.3㎝,体重65±14.8㎏,BMI24.4±4.6),骨折果数は,単果22足 両果7足 三果9足,免荷期間は18.9±6.3日であった.評価項目は,WBDROMとそれに影響を及ぼす可能性がある非荷重膝関節屈曲位での (Non Weight Bearing Dorsiflexion ROM以下,NWBDROM)及びFHL Excursion Test (以下,FHLET)とした.WBDROMは,荷重位ランジ姿勢における前方下肢側 (荷重膝屈曲位)の最大背屈時の下腿前傾角度 (°)をデジタル傾斜計にて測定した.NWBDROMは,腹臥位膝関節90°肢位にてゴニオメーターを用い1°刻みに測定した.FHLETは,腹臥位膝関節屈曲位・最大背屈位を保持した状態にて,中足骨頭を尾方から把持した状態で中足骨頭が底側に偏移しない範囲での母趾MPJ伸展角度をゴニオメーターで測定した.その際,基本軸は足底面,移動軸を母趾基節骨とし1°刻みに測定した. 統計解析は,WBDROMとFHLET時の母趾MP伸展角度の関連をSpearmanの順位相関係数を用い検討し,その後従属変数をWBDROMとし,FHLET時の母趾MP伸展角度・年齢・骨折果数・免荷期間・NWBDROMを独立変数とし重回帰分析を実施した.なお有意水準 5%未満を統計学的有意とみなした. 【結果】 WBDROMは36.9±9.9°FHLETでの母趾伸展角度は25.2±10.6°,NWBDROMは17.8±6.5°であった.WBDROMとFHLETでの母趾伸展角度に相関関係を認めた (r=0.672 p<0.001).また重回帰分析の結果は,WBDROMとFHLETでの母趾伸展角度の関連は頑健であった (β=0.51 p<0.001). 【考察】 結果より,WBDROMとFHLET時の母趾伸展角度の関連を認めた.その要因としては,果部骨折術後に関節内の腫脹が生じることで,足関節包と密接な位置関係にあるFHLの滑走にも影響する可能性があると推測される.またFHLは腓骨後面遠位部から起始し,距骨の後方を通過し載距突起の尾方を走行した後に長趾屈筋との足底交叉を経て,停止である母趾末節骨に付着する.特にWBDROMでは,背屈に伴う距骨の後方滑りに加え,アーチの下降や足長の延長が生じることで,前述のFHLの走行上その柔軟性・滑走性が必要となることが考えられる.これらのことにより果部骨折術後のWBDROM獲得にはFHLに対するアプローチが重要となる可能性が示唆された. 【倫理的配慮】 本研究は臨床研究に関する倫理指針に従って行った.対象者には,研究内容の説明を文書および口頭にて行い同意を得た.なお本研究は当該施設の倫理委員会の承認 (番号:115)を得て実施した.