主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2024 in 佐賀
回次: 1
開催地: 佐賀
開催日: 2024/11/09 - 2024/11/10
【はじめに、目的】 本邦では歩行障害を呈した脳血管患者に対し、長下肢装具(以下KAFO)を使用する機会は多く見受ける。しかしその効果や、短下肢装具(以下AFO)への移行の判断に関するエビデンスは十分に確立されていないのが現状である。脳血管患者に対し、COVID-19罹患後の第46病日以降、KAFOにて頻回な起立・歩行練習を継続的に実施し、第113病日以降筋電図を測定する機会が得られた。そこで今回、KAFO・AFOの効果検証を目的とし、理学療法評価に加え筋電図学的評価を縦断的に行ったため以下に報告する。 【対象と方法】 対象は、第27日病に当院回復期に転院となった右放線冠の脳梗塞を発症した80歳代の女性である。歩行は麻痺側立脚期での内反、膝折れがみられ、本人用KAFO(膝継手SPEX、足部SHB)を作製し全介助であった。第46病日以降KAFOを使用し毎日起立100回、2動作前型での後方介助での歩行訓練を500M実施した。第113病日の評価はBRS下肢Ⅲ、表在・深部感覚軽度鈍麻、起居・移乗は中等度介助、トイレ動作全介助、歩行はKAFO使用し全介助、高次脳機能障害は注意障害と左半側空間無視を呈し、FIM51点であった。第113病日はKAFO、第134病日はKAFOとAFO・4脚杖軽介助、第161病日はAFO・監視にて、理学療法評価に加え歩行時の筋活動を測定した。筋電図はGAIT JUDGE(PACIFIC SUPPLY社製)を使用し、歩行時の大腿直筋(以下RF)と前脛骨筋(以下TA)を測定し、フィルタリング後RMS処理を行った。処理後のデータより安定した5歩行周期を抽出し、YANGらを参考にRFの荷重応答期(以下LR)、単脚支持期(以下SS)を算出し平均値を求め、その後各々1歩行周期の平均値で除し正規化し、筋活動の指標とした。 【結果】 筋活動は、第113病日KAFOのRFのLR・SSは102%・198%、TAは129%・63%、第134病日KAFOのRFのLR・SSは159%・1.5%、TAは52%・37%、第134病日AFOのRFのLR・SSは328%・120%、TAは163%・116%、第161病日AFOのRFのLR・SSは235%・214%、TAは149%・121%、あった。また、第161病日のBRS、表在・深部感覚、注意障害・左半側空間無視は著変なし、起居・移乗は監視、トイレ動作は下衣操作に軽介助、歩行はAFO使用し4脚杖にて監視、FIM76点となった。 【考察】 第134病日のKAFOのRFはSS以降著明に減少し、TAはLR、SS共に減少しており、その理由として、初期接地以降は装具に支持され筋活動が抑制されたのではないかと考える。一方で、第134病日同日のAFOの測定ではRF、TA共にKAFOよりも増加しており、膝折れなく動作が安定したためAFOへの移行が可能との判断に至った。大畑はRFでの筋活動を中心に、KAFOは固定性が高いゆえにその固定性に依拠した学習をしてしまう危険性があると報告しており、今回RFだけでなくTAに関しても同様の結果が見られたのではないかと考える。また、第161病日のAFOでの測定では、RF・TAの筋活動は減少したものの軽介助から監視での歩行が可能となり、効率的な歩行の獲得につながったのではないかと考える。今回、KAFOの長期的な使用ではRFやTAの筋活動が減少する可能性が示唆され、定期的な評価を行い時期に併せ、KAFOからAFOへ移行を促していくことが重要であると考える。 【倫理的配慮】本研究は、患者の個人情報保護に配慮し個人が特定されないよう留意し、研究の主旨及び目的を本人に対し口頭にて十分な説明を行い、同意を得た。