抄録
椅子からの立ち上がり動作は、最も一般的な日常生活活動であり、この動作での疼痛は高齢者や骨関節疾患患者の主訴として挙がりやすい。変形性膝関節症(以下、膝OA)に対する人工膝関節全置換術(以下、TKA)は、除痛効果に優れ患者の満足度が非常に高い。反面、膝関節の屈曲可動域制限を生じてしまう。また、TKAを施行するような末期の膝OAにおいては、立ち上がり動作時に膝蓋大腿関節(以下、PF関節)に痛みを訴えやすい。そこで、今回立ち上がり動作時の重心に着目し早期獲得すべき膝屈曲角度を求めた。健常人男性を対象とし、正常立ち上がりと片側膝関節に70°_から_120°の制限を設定した立ち上がりとを比較した。その立ち上がりをビデオ撮影し、ビデオ画面で重心移動距離を計測し検定を行った。検定結果より、屈曲制限70°と80°において有意差がみられ、立ち上がり動作時にPF関節の負担を軽減する為には80°以上の屈曲可動域が必要であることが示唆された。つまり、TKAにおいて目標屈曲可動域を獲得するためには、早期に屈曲80°を獲得しなければならないと考えられる。