抄録
【はじめに】
我々は2003年度本学会において、脳血管障害後、片麻痺を有する症例1例に対し、油圧機構を足継手に用いた短下肢装具(Gait Solution)とシューホン式短下肢装具(AFO)の比較・分析を行い、報告を行った。今回、Gait SolutionとTamarak継手付AFOの比較と、Gait Solutionの油圧ダンパーを調整により、歩行時立脚初期が立脚後期に及ぼす影響について考察を行った。
【Gait Solutionの機能・構造】
足継手外側に油圧ダンパーを組み込んであり、初期角度から足関節底屈方向回転時に制動力を生じ、これを4段階(1~4)に調整することが出来る。また背屈方向へはフリーで回転するが、継手内部の戻りバネにより立脚後期から遊脚期のつま先離れを補助する。
油圧抗力によって生じる力は変形量だけでなく変形の速度によっても影響を受けるため、油圧ダンパーの抗力は定量的な表現が難しいが、ゆっくり動かしたときに1はスパイラル式AFO、4はシューホーン式AFO程度の硬さと考えられている。可動域は底屈:18度、背屈:30度、初期背屈角度:0度に設定した。
【研究目的】
Gait Solutionの足関節底屈制動モーメントの調整は立脚初期の踵接地(Heel Contact:H.C.)から足底接地(Foot Flat:F.F.)にかけての円滑な重心移動を促すことを主な目的としている。立脚中期以降はGait Solution・Tamarak継手付AFOともに背屈制動を有さない。これらの特性より、Gait Solutionの油圧抗力の変更による変化と、Tamarak継手付AFOとの比較を行い、装具歩行において立脚初期が立脚後期に及ぼす影響を考察する。
【対象】
29歳男性。診断名:脳出血による左片麻痺。著明な関節可動域制限は認められない。足関節のModified Ashworth Scale:1+。足クローヌスが顕著。移動はTamarak継手付AFO (初期背屈角度:0度)使用して屋内・屋外歩行自立レベル。
【方法】
機器は三次元動作解析システムLocus MA-6250(ANIMA社製・カメラ4台)、床反力計(ANIMA社製・フォースプレート2枚)を用い、サンプリング周波数60Hzにて測定した。マーカーは頭頂、両肩峰・股関節・膝裂隙・外果・第5中足骨の計11ヶ所とした。各パラメータの算出と10m歩行時間の測定を行った。
【結果】
1.Gait Solutionにて足関節底屈方向への油圧抗力1と4の比較 2.Tamarak継手付AFOと、本人と自覚的な所見としては最も歩きやすいと述べ、セラピスト2名が歩容良好と判断したGait Solutionの抗力3の比較を行った。2.立脚後期のパラメータに差が認められた(表1参照)ものの、立脚初期から中期のパラメータに大きな差異は認められなかった。自覚的所見としてはGait Solutionの抗力3の方が、蹴りだすときに膝が曲げやすいとのことであった。3.Gait Solutionの油圧抗力に関しては1と4で比較を行い、表2の結果が得られた。自覚的所見としては抗力1では足関節の不安定性を訴えた。
【考察】
1.Tamarak継手付AFO において踵離地(Heel Off:H.O.)時に反張膝が認められ、つま先離れ(Toe Off:T.O.)時の膝関節屈曲角度の低下が認められた。H.O.膝関節屈曲モーメントが作用し、遊脚期にかけての膝関節屈曲が得られないため、股関節伸展角度の増大により股関節屈曲モーメントを発生させて補っていると思われるが、立脚初期が及ぼす影響は不明であった。
2.抗力1においては接地後の足関節背屈・股関節伸展モーメントが不足するためにM.S.にかけての前方への推進力が得られないと考えられる。その結果、H.O.時に若干膝関節屈曲モーメントが作用するため、やや分廻して遊脚期に移行していると考えられる。
【まとめ】
脳血管障害後、片麻痺を有する症例の平地歩行において、装具療法による立脚初期の作用は立脚後期にまで影響を及ぼすことが示唆されたが、その機序を明らかにするに至らなかった。今後は症例数を重ね、重回帰分析等の統計学的処理を用いて、立脚初期の重要なパラメータを明らかにするとともに、Gait Solutionの各油圧抗力に対する適応について考えていきたい。
