九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第26回九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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切断部位による義足歩行の違いについて
*村上 真理子中村 勝徳五十峯 淳一中村 裕樹竹内 明禅
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キーワード: 切断, 歩行分析, 筋電図
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p. 108

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抄録
【はじめに】
 下肢切断者の歩行において、切断下肢の運動は残存する筋の筋力がそのまま末梢の運動として伝達されることになるが、義足を装着した場合には断端とソケットの間に別のトルクが働き末梢への伝達力は非常に低下する。よって、歩行スピード、安定性など義足を満足に使いこなすためには十分な筋力訓練が不可欠となる。しかし、歩行時における筋活動は切断部位によって異なる。今回我々は異なった切断部位の義足患者において歩行時の筋活動電位を計測し、比較した結果若干の知見を得たのでここに報告する。
【対象】
 左大腿切断者(62歳女性、中断端、義足装着期間10ヶ月)、右下腿切断者(65歳男性、中断端、義足装着期間4ヶ月)、両下肢切断者(62歳女性、右下腿切断・中断端、左大腿切断・中断端、義足装着期間2年4ヶ月)各1名ずつ計3名で行った。
【方法】
 筋活動電位の計測は表面筋電計NORAXON社製Myo researchを使用し、両側の中殿筋・大殿筋・大腿直筋・外側ハムストリングスの筋電波形の導出とビデオ解析を行った上で、同時に歩行速度も計測した。患者はすべて平行棒内での通常歩行を行ってもらい、結果は各個人の遊脚期時間・立脚期時間の比較と健側・義足側で1歩行周期の筋の最大ピーク時期、筋活動量を比較した。
【結果】
 1)下腿切断者の立脚期と遊脚期の比率は立脚期67%、遊脚期33%と健常人の歩行周期に近かった。大腿切断者の歩行周期では健側の立脚期が86%で健常人と比較して長く、遊脚期は14%と短かった。両下肢切断者は両下肢ともに立脚期が89%・両脚支持時間75%と健常人と比較して長かった。
 2)下腿切断者は立脚期後期に義足側の大殿筋の最大ピークが認められた。大腿切断者は立脚期中期に健側の中殿筋に最大ピークを認めた。
 3)1歩行周期中の平均的に行われた筋活動量に対して各筋の最大ピークの割合を算出し健側と義足側を比較した。下腿切断者については大殿筋の健側が10.2・義足側が20.3と義足側が大きくなることが示唆され、大腿切断者においては大腿四頭筋の健側が9.8・義足側17.5と義足側が大きくなり、ハムストリングスは健側が8.6・義足側6.8、大殿筋は健側が11.6・義足側が9.7と健側が大きくなることが示唆された。
【考察】
 下腿切断者の歩行周期は健常人に近かったが、立脚期後期に義足側の大殿筋の最大ピークを認め、健側より筋活動が大きくなることが示唆された。これは、股関節伸展筋である大殿筋が義足側足部の底屈運動を代償してより働いたためと考えられる。大腿義足について関川は、健常者は踵接地直後には膝屈曲が起こるため床反力は膝関節の後方、股関節の若干前方を通るために股関節伸展モーメントが大きく働く必要があるが、膝関節が伸展位で固定されている義足については少しの股関節伸展モーメントで床反力が膝の前方を通ることができると述べている。よって今回大腿切断者は単軸遊動膝継手を使用していて歩行時の膝関節は伸展位で固定されているため、股関節伸展筋である大殿筋・ハムストリングスは義足側が健側と比較して小さくなったと考えられる。また、大腿切断者においては義足側の体重支持が不十分であること、膝関節が伸展位に固定されていることでぶん回し歩行を行う傾向にあることから、健側では立脚期の延長や立脚期中期に中殿筋の最大ピークを認め、義足側より筋活動量が大きいことが示唆された。盛合らによると正常歩行では遊脚期・立脚期ともに速度に比例して膝屈曲角度が増大すると述べていることから、両下肢切断者については膝関節伸展位であることで歩行速度の低下が認められたことや両下肢切断により両側とも体重支持が不十分であったと考えられるため、立脚期時間・両脚支持時間が長くなったと考えられる。今回、切断者の歩行について、健側の股関節周囲筋の筋活動量が義足側より大きくなる傾向が示唆されたことは切断により失われた下肢機能を代償しているためと考えられる。これにより歩行効率が悪くなると予想されるため、代償運動の軽減を図るためにも残存する筋の筋活動が重要となると考える。
 義足においては下肢の関節角度や使用されている継手・足部による歩行の変化などが数多く報告されており、それらとの関連性を視野に入れ、さらに歩行においては上肢や体幹機能、重心移動などを欠くことができないと考えるため含めて今後の課題にしたい。
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© 2004 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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