九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第26回九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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食事動作に適応する座位保持付リクライニング式車椅子の作成
四肢麻痺者の症例を通して
*大平 すみか岩瀬 裕幸原 寛道
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p. 112

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抄録
【はじめに】
 一般的に体幹機能を全廃し座位姿勢を保持できない方は、標準型リクライニング式車椅子(以下リクライニング車椅子とする)を使用されることが少なくない。今回、車椅子の不適合で臀部に痛みを訴える症例に対して、残存している上肢機能を引き出し、楽しく食事動作ができるようなリクライニング車椅子の作成を試みた。
【症例紹介】
 診断名:クモ膜下出血後遺症、32歳・男性、四肢麻痺、身体障害者手帳1級取得。既往歴:27歳時上記診断名発症。28歳時意識障害により経口摂取困難で胃婁造設(4カ月後に抜去)。29歳時リクライニング車椅子作成。30歳時療護施設入所。日常生活動作全介助レベル、コミュニケーションは可能。ニードは食事動作の自立とお尻が痛くないような椅子の作成
【評価】
 食事動作の分析 異常姿勢筋緊張に支配され活動時両下肢のシザーズパターン著明。リクライニング車椅子上姿勢は、骨盤・体幹が安定すれば頭部コントロール可能。胸・股・骨盤ベルト必要。シート長、シート傾斜角度、フットレスト・アームレスト・ベルト位置不良で座面がずれて腰・臀部に疼痛が出現し、体幹はシート後方に押しつけられ安楽な姿勢をとることが困難。安静座位保持30分(傾斜角度130度)が限度で、何度も食事時間中に姿勢修正が必要であった。上肢操作がしやすい前傾位姿勢保持(傾斜角度100度~90度)は困難な状態。(上肢操作)右肘関節屈曲140度~伸展-40度まで自動運動可能。つまみ動作可能。食物をすくう、口までの運搬は、右肘関節の可動範囲に限定された範囲での操作、カップ把持可能。太柄スプーン、バネ付き箸使用にて操作練習中。食べこぼし多く全介助レベル。自力遂行時間40分以上必要。介助時遂行時間30分程度。
【目標】
 食事動作がしやすい車椅子の作成 食事用自助具操作の向上 食事用テーブルの作成
【訓練内容】
 1. リクライニング車椅子適合判定2.肘関節可動域訓練4.座位訓練5.食事用自助具操作訓練。訓練頻度:週1回、作業療法個別2単位実施
【結果】
 リクライニング車椅子上座位ではシート後方に体幹が押しつけられ、臀部の疼痛・発赤・不快感が生じた。それはリクライニングをした時の背もたれと身体との大きなずれと臀部の前ずれが原因だと推測した。きさく工房考案のリクライニング支点を座フレーム中間に設け、背もたれとシートの臀部支持部分とが一体なってリクライニングする機構を備えた座位保持装置付リクライニング車椅子(以下新型リクライニング車椅子とする)を作成した。座面には除圧式クッションを敷き、股関節屈曲90~100度、外転30~45度、膝関節屈曲100度以上に設定し下肢の異常筋緊張により姿勢が崩れるのを抑制できる。さらに、臀部と腰部の疼痛は抑制され食事中に姿勢を修正することがなくなった。食事時は、口までの運搬時に頭部の屈曲にてリーチ範囲を代償したためより上部体幹を安定させ、上肢操作がしやすい様に骨盤と胸ベルトを調整した。食事用の自助具は、滑り止めシート、バネ付き箸、太柄スプーン、高さ調節用台を利用した。テーブル設定は、新型リクライニング車椅子上座位で前腕部をテーブルに置き、肘関節100度の可動範囲で口迄の到達が出来る高さに設定した。食器と口までのリーチ範囲を狭め、肘関節の動きのみで取り込みが出来るように上肢の操作訓練を行った。食べこぼし量は減少した。箸・スプーン操作は可能になったが、細かい食物のつまみや、すくう食物が少なくなってからの操作はまだ介助が必要であり自立に向けては、さらなる食事動作の反復練習が必要である。
【考察】
 四肢麻痺により坐位保持困難な方に利用していたリクライニング車椅子は、姿勢保持と移動手段の確保など様々な利点はあるが、食事動作時に残存している右上肢の機能を最大限に利用するには、臀部がずれない、体幹が安定する、安楽に座る、肘関節の可動性を安定させるテーブル調整が容易に出来ることが重要だと考えた。新型リクライニング式車椅子はこの条件をみたし有効であった。この椅子の使用により臀部の疼痛が減少し座位耐久性も向上し、食事動作の改善につながったのではないかと考えた。
【まとめ】
 食事動作に適応する車椅子を作成した。適切な座位の条件を可能にする新型リクライニング車椅子の使用は食事動作における残存機能引き出す要因の一つになると考えた。
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© 2004 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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