九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第26回九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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健常者における下肢の筋力調節能力の特性
*木山 良二前田 哲男福留 清博
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p. 135

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抄録

【目的】
 現在,筋力の評価としてはMMTやマスキュレーターを用いた最大筋力の評価が一般的に行われている。しかし日常生活では最大筋力を発揮することは稀であり、むしろ、必要な筋力を適切なタイミングで調節することが重要である。しかし下肢筋力をこのような視点で分析した報告は少ない。
 出村らは、時間とともに変動する要求値に実際に発揮した筋力(発揮値)を追従させる追従運動調節能力を用いて、握力の調節能力を詳細に検討している。本研究の目的は、追従運動調節能力を用いて,健常者における下肢の筋力調節能力の特性について検討を行うことである。
【方法】
 対象は健常学生延べ26名(男性13名,女性13名)であった。筋力調節能力は,右膝関節伸展の等尺性筋力による追従運動調節能力を評価した。サンプリング周波数は10 Hz、計測時間は60秒とした。測定肢位は両足底を離床した背もたれのない端座位とした(図)。発揮値はKin-Comを用いアナログ出力し,A/D変換ボードにてパソコンに取り込んだ。Microsoft Excelを用いて要求値と発揮値をリアルタイムにパソコンの画面に棒グラフとして表示し,対象者には常に両者を一致させるように指示した。計測開始後10秒と終了前10秒を除いた40秒間の誤差面積を算出した。この誤差面積が小さいほど筋力調節能力が優れていることを示す。
 要求値は最大等尺性筋力の10%を振幅とする正弦波とした。筋力調節能力の特性を分析するために,2つの実験を行った。実験1は調節する筋力の範囲による差を検討するために周波数0.2 Hzで,調節する筋力の範囲が最大等尺性筋力の0-20%,5-25%,10-30%,15-35%,20-40%の5つの要求値を用いて測定した。実験2では周波数による特性をみるために,調節する筋力の範囲が5-25%で,周波数が0.1 Hz,0.2 Hz,0.3 Hz,0.4 Hz,0.5 Hzの5つの要求値を用いた。実験1,実験2それぞれ上記の対象者から男性10名,女性10名を測定した。まず0.2 Hzで5-25%を変動する要求値で2回練習を行ったあと,各要求値を2回づつランダムに測定し,最小値を採用した。
 要求値の周波数,振幅による筋力調節能力の特性,要求値と発揮値の位相のずれ,ならび性差について検討した。筋力調節能力の特性については繰り返しのない二元配置分散分析,要求値と発揮値の位相のずれは相互相関関数,性差についてはマンホイットニー検定を用いて分析した。
【結果】
 実験1では調節する筋力の範囲が高くなるほど,有意に誤差面積が大きくなり筋力調節能力が低下した(p<0.01)。実験2では周波数が高くなるにしたがい,誤差面積が有意に大きくなり筋力調節能力が低下した(p<0.01)。要求値に対する発揮値の位相のずれは要求値の条件により異なるものの-50 msから50 msであった。
 また各要求値ごとに男性と女性の誤差面積を比較したが,いずれも有意な差はみられなかった。
【考察】
 筋力調節能力は周波数の増加,調節する筋力の増加とともに低下する結果となった。要求値に対する発揮値の位相のずれは-50 msから50 msであった。人間が外部刺激に対する応答運動を開始するにはおおよそ120から200 ms必要とされる。今回用いた要求値は周期的な波形であり,また開始10秒はデータとして採用していない。したがって今回の筋力調節能力はfeedforwardによる運動制御の正確さを評価していると考えられる。
 今回用いた追従運動調節能力による評価法は調節する筋力の範囲,周波数による筋力調整能力の差を明確にとらえることができた。このことは随意運動をより詳細に評価できることを示唆すると考えられる。今後中枢性麻痺などによる随意運動障害を対象に検討を進めていきたい。
 本研究は財団法人慢性疾患・リハビリテイション研究振興財団の助成による。

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© 2004 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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