九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第26回九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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Functional Reach Test時の重心動揺について
-若年者と高齢者との比較-
*井口 茂横山 茂樹井手 諭四方田 明子田中 聡飯野 朋彦小泉 徹児中島 久美片岡 拓巳松尾 志織日野 真
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p. 138

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抄録

【はじめに】
 近年、高齢者に対する転倒・骨折予防教室が各地で実践されており、その評価において立位バランスの評価が重要とされている。立位バランスの評価には、片脚起立時間、外乱刺激検査、Functional Reach Test(以下、リーチテスト)、Berg Balance Scaleなどが用いられており、その研究報告も多い。リーチテストは、Duncanらにより考案され簡便な方法として用いられているが、パフォーマンステストのため、試行動作の規定など考慮する必要がある。
 今回、在宅高齢者を対象にリーチテスト時の重心動揺を評価し、健康成人との比較からそのバランス能力の特徴を検討し、さらに他の体力テストとの関連性についても検討を加えたので報告する。
【対象】
 対象は、長崎市在宅介護支援センター主催の骨折・転倒予防教室へ参加した65歳以上の在宅高齢者42名(以下、高齢者群)で年齢は66~87歳(平均74.0±5.6)、性別はすべて女性である。比較対照は、健康成人女性10名(以下、若年者群)、年齢19~25歳(平均21.0±1.6)である。
【方法】
 重心動揺はアニマ社製荷重検査GS-620を用い、30秒間の安静時立位と10秒間のリーチテスト時を各1回ずつ測定した。測定肢位は裸足にて両側踵部中心間距離15cm、踵部中心と第2趾先端を結ぶ線が前額面に対して垂直位とした。開始肢位は上肢を自然下垂した立位にて2m前方のマーカーを注視させ、立位保持が安定した後、測定を開始した。リーチテストは静止立位計測5分後、同様の肢位から右上肢90度屈曲位から最大限前方へリーチさせ1cm単位で計測した。重心動揺の解析項目は総軌跡長、X方向軌跡長、Y方向軌跡長、外周面積、最大振幅比、X方向及びY方向動揺平均中心変位、荷重左右差(%)の8項目とした。統計解析は、Mann-WhitneyのU検定を用い高齢者群と若年者群を比較し、さらに転倒教室での体力測定との関係をSpearmanの順位相関を用い検討した。なお、体力測定の項目は握力、長座位体前屈、Timed Up & Go Test(以下、TUG)、6m歩行時間の4項目である。
【結果】
1.静止立位時の比較
 総軌跡長、X方向軌跡長、Y方向軌跡長、外周面積、左右荷重差(%)において高齢者群が有意に高い値を示し、最大振幅比では有意に低かった。位置変位のX方向動揺平均中心変位では有意に低く、Y方向動揺平均中心変位では有意差はみられなかった。
2.リーチテスト時の比較
 リーチ距離は高齢者群27.1±6.4cm、若年者群36.4±3.6cmで有意差が認められた。重心動揺では、X方向軌跡長において高齢者群が有意に高く、最大振幅比では有意に低い値を示した。X方向動揺平均中心変位では高齢者群が有意に高く、Y方向動揺平均中心変位では有意に低い値を示した。
3.リーチ距離と体力測定との相関
 リーチ距離と体力測定との関係は、握力、長座位体前屈、6m歩行の歩幅と正の相関がみられ、TUGと負の相関が認められた。
【考察】
 今回対象とした在宅高齢者の静止立位時の重心動揺は、総軌跡長、X方向軌跡長、Y方向軌跡長、外周面積において若年者に比べ有意に高い値を示し、最大振幅比では有意に低かった。諸家らにより加齢に伴う重心動揺は軌跡長、外周面積の増加がみられ、動揺方向は、前後方向より左右方向で増加することが報告されている。今回の結果においても同様の傾向がみられ、加齢に伴う立位保持能力の低下が伺われた。さらに、重心の位置変化ではY方向動揺平均中心変位に有意差はないものの低値を示し、荷重左右差、X方向動揺平均中心変位で有意に高かった。このことは、重心が後方かつ右方へ変位していることが考えられ、高齢者特有の前屈姿勢も一つの要因と思われた。一方、リーチ時ではX方向軌跡長において高齢者群が有意に高く、左右方向の動揺が大きいことが伺われた。また、位置変位ではX方向は高い値を示し、Y方向では低値を示したことから高齢者群におけるリーチ動作は重心を挙上側である右方へ移動し、後方に位置した肢位を保ちリーチしていることが考えられた。さらに、リーチ距離と体力測定項目との関係においても長座位体前屈、歩幅との間に正の相関、TUGと負の相関がみられ、下肢関節の柔軟性や歩行における推進力への関係が示唆された。
 リーチテストの目的は、前後方向の重心移動を上肢リーチ距離に換算し評価することにあり、その際の重心の平衡機能は足関節、膝関節、股関節などの下肢関節の可動性や制御機能に関係するものと考えられる。従って今回の結果より高齢者に対するリーチテストは、前方への平衡機能の程度を評価するものと思われた。今後、転倒既往などとの関連について検討していきたい。

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