九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
Online ISSN : 2423-8899
Print ISSN : 0915-2032
ISSN-L : 0915-2032
第26回九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
会議情報

痴呆症状をワーキングメモリーサブシステムの障害と捉えられるか
*内山 将哉中西 一小田 小百合
著者情報
会議録・要旨集 フリー

p. 151

詳細
抄録
【目的】
 痴呆症状を示す患者は多いが,多彩な症状を呈するために,治療対象となる問題点を特定することは困難である.これらの者はすでに学習した知識や経験を絶えず参照しながら,目的を遂行することが出来ないことから,今回痴呆症状を呈する患者を,ワーキングメモリーの障害と仮定した.さらに,障害されたワーキングメモリーは中央実行系およびサブシステムを含めた全体ではなく,サブシステムの限定的な障害と捉えることが出来れば,より適切なアプローチを開発出来るのではないかと考えた.本検査はサブシステムの限定的な障害の有無を把握することを目的として実施し,若干の知見を得たので報告する.
【対象】
 対象は脳血管障害や整形疾患の当院入院・外来患者で,失語や半側空間無視がなくコミュニケーション可能な55-90歳の男女50名(MMS24点以上25名・MMS24点未満25名).
【方法】
 数字の順唱・逆唱(三桁および四桁で2回)を行う.その後4色のブロックを左から赤・白・黄・青の順に提示する.被検者は並べられたブロックを視覚的に確認しながら,検者の指示通りに上肢を使用せずにイメージ上でブロックの順番を変え,変化した順番を伝えるテスト1・2を行う.以下に手順を示す.また,採点方法は順唱・逆唱が正答1点で各0-2点.テスト1・2は1回目の問題提示での正答3点,2回目での正答2点,3回目での正答で1点,正答なし0点の各0-18点とする.
1.テスト1(テスト前に上肢を使用して問題以外の課題を行い,課題が理解できているかを確認する)問題提示の度に,全てイメージ上で指定された色を指定した場所に移動して,左から順番に色を読むことを伝える.また,被検者が3回誤答すれば次に進む.(1)赤を右端(2)黄を左から2番目(3)白を右端(4)黄を左端(5)青を左端(6)赤を右から3番目.
2.テスト2((1)のみ3回誤答後に上肢を使用して正答するまで課題を行う)
 指定された2色の場所を入れ替える以外はテスト1と同様に進める.(1)赤と黄(2)赤と青(3)黄と青(4)白と黄(5)赤と黄(6)白と赤.
【結果】
 各条件での検査の平均値(表1).Mann-Whitney検定で結果(3)群と(4)群および結果(4)群と(5)群のテスト2の点数を比較したところ,結果(4)群は双方の比較で有意に点数が低かった(p<0.01).また,課題の理解確認のために行った,上肢を使用しての課題遂行は全員が混乱無く可能であった.
【考察】
 痴呆症状は記憶・見当識・理解・計算・学習能力・言語・判断など多彩な機能の低下を示すが,これは人を含めた環境に対して,どれだけ適切に対応できるか否かという能力の低下と考えることが出来る.ワーキングメモリーは目的志向的な課題や作業の遂行に関わるアクティブな記憶とすると,これも環境に適応するための能力と考えることが出来る.その中の視覚・空間的スケッチパッドは音韻ループでは保持できない非言語的な情報を貯蔵するので,ブロックの順序変換課題のテスト1・2はサブシステムの中でも特に視覚・空間的スケッチパッドが必要な課題と考えられる.
 これを踏まえて今回の結果を見ていくと,結果(3)(4)群は数字の順唱・逆唱は可能なので中央実行系および音韻ループは正常であると考えられる.しかし,結果(3)(4)群のテスト2を比較すると結果(4)群の点数は有意に低く,さらに結果(4)(5)群のテスト2を比較すると(4)群は(5)群よりも順唱・逆唱が良好であったにも関わらず(4)群の点数は有意に低かった.つまり,結果(4)群は上肢を使用したブロックの入れ替え課題は可能であるため,構成障害による組み換えのエラーではなく視覚・空間的スケッチパッドに限定的な低下が認められたと考えられる.よって,痴呆症状を呈する者の中にはワーキングメモリーの中央実行系である注意の制御機構よりも,サブシステムに限定的な障害があることが示唆された.
 しかし,視覚・空間的スケッチパッドのみの障害か中央実行系との関係性の障害かは,今回の検査からは判断できないため今後検証する必要がある.また,視覚・空間的スケッチパッドへのアプローチ方法および,アプローチにより痴呆症状が改善するか否かも検討して行きたい.
  Fullsize Image
著者関連情報
© 2004 九州理学療法士・作業療法士合同学会
前の記事 次の記事
feedback
Top