抄録
【はじめに】
私達は好む好まないに関わらず、日々の生活の場の中でストレス源に出会い、それへのコーピングを余儀なくされている。ストレスは私達にとってプレッシャーや脅威として極めて日常的に共通に体験される精神現象である。それと同時に筋緊張や不眠など様々な生理的変化を伴った身体的現象でもある。病気の発症などマイナス影響を及ぼしかねないストレスについて入院患者に対し、アンケート調査を行ったので以下に報告する。
【対象】
今回の対象は痴呆・失語がなく、アンケート内容が理解でき協力の得られた外傷後の入院患者を中心にした20名。男性13名、女性7名、平均年齢49.65±21.63歳。(年齢・性別・入院期間・リハビリテーション暦・疾患名は問わない。)疾患部位としては頸1名、上肢7名、下肢4名、上肢・体幹・下肢複合8名である。
【方法】
方法は協力の得られた入院患者に対し、ストレス反応尺度(ストレッサーによって引き起こされる心理的ストレスと身体的ストレス反応を測定)、コーピング(ストレス状況下でストレス反応を低減するためになされる心理的ないし行動的な努力のことで、ストレスの原因それ自体を変化させることを目的とするものとストレッサーによって生じた不快な情動のコントロールを目的とするものの2つに分類)、ストレス耐性(個人の生得的な素質ではなく体験から養われたもので、これまでのストレス自体をどう受け止め、いかに対処してきたかによって異なり点数が高いほどストレスに対する抵抗力が高いことを示す)の3つのアンケートを当院入院1週間以内に、4段階評価での点数、年齢・職業を記入してもらい行った。統計処理には単回帰分析を用い、危険率5%未満を有意とした。ストレス反応尺度(心理的ストレス、身体的ストレス)・コーピング(問題焦点型、情動焦点型)のそれぞれの尺度得点の相関についてはピアソンの相関関係数を求めた。またヒストグラムを用いて年齢層を分けて比較した。
【結果】
ストレス反応尺度においては情動的反応、認知・行動的反応などの心理的ストレスと疲労感、自律神経系の活動性亢進などの身体的ストレス、コーピングにおいては問題焦点型、情動焦点型に対し、有意差を認めた。(P<0.05)男女別・部位別・年齢・ストレス耐性の関係には相関が認められなかった。しかし、未成年、中年、高齢と層を分けて比較すると未成年層と中高年層でも自営業の人は心理的ストレスが高い傾向が認められた。
【考察】
ストレスという言葉は本来の結果(反応)としての意味のみならず、原因(刺激)としての意味も賦与され、科学的用語としては極めてあいまいに使用されていた。しかし、LazarusとFolkman によってストレスのひとつの重要な特性が、主観的で相対的な点にあることが指摘されている。すなわち、ストレスは反応でもなくそれを引き起こす刺激でもなく生体と環境との相互作用的な交渉の中で、ストレスフルなものとして認知された関係性とそれに対抗しようとする一連の意識的な努力の過程にほかならないということである。今回、ストレスに対し調査を行ったが、未成年と自営業を営む中高年の心理的ストレスが高い傾向である事が分かった。入院により他者との遅れを感じやすい環境であり未成年層に対しては部活をしているとライバルに差をつけられる、卒業が近く将来に対する不安の大きさの現れであり、中高年層でも自営業が高いのはそれを専業としていると家族の扶養(生活)、力仕事である場合今後続けていけるかという不安、自営ということで労災等の保険も関係していると考える。また保険等で生活が守られる人達にとって怪我をしたことは不幸な出来事ではあるがゆっくりできるなど普段できない利点もあるのではないだろうか。今回、調査は行っていないが退院が近くなると不定愁訴を訴える患者の多くが労災等の保険が関与している印象を受ける。この事から入院患者にとって今後の生活不安もストレスの原因となるだろうし、保険等で生活を守られてきた患者にとっても今後は入院期間の仕事の遅れなどで心理的ストレスが増加する可能性がある。それに伴い、身体的ストレスも結果より増加が予想される。入院という経験が耐性を高くする可能性もあるが、個人でストレスに対する対応方法を獲得していかなくては耐性が低い人はストレスの影響を受けやすいと考える。年齢と耐性では相関は得られなかったがこれに性格などの結果も追加し、疾患別での違いなど今後もっと詳しくストレスについて調査していけたらと考える。そして個人に合った対処方法を探し入院患者に対し機能面だけでなくMental面のサポートも行えればと考える。