九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第26回九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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大腿骨頚部骨折術後理学療法の計画
受傷前独歩・痴呆を有する症例での検討
*山下 絵美河野 洋介押川 達郎飛永 浩一朗井手 睦
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p. 22

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抄録
【はじめに】
 大腿骨頚部骨折の術後理学療法(以下リハ)では痴呆によりリハの進行を妨げられることが多い。痴呆を有する大腿骨頚部骨折患者の歩行機能予後予測に対する当院での先行研究では、受傷前独歩患者の歩行器歩行訓練導入までには平均11日を要するという結果が得られている。この結果をもとに受傷前独歩で痴呆を有する患者における機能予測と術後理学療法治療計画を検討したので報告する。
【対象】
 平成14年12月から平成16年1月までの13ヶ月間に当院において大腿骨頚部から転子部の骨折に対しリハを行い、受傷前歩行能力が独歩でHDS-R 20点以下(平均11.2±5.4点)の患者は28名であった。このうち、退院までに歩行器歩行訓練まで到達した23名(平均年齢82.1±6.3歳、男性2名、女性21名)を対象とした。対象者は全員、術後早期に(平均1.2日)全荷重が許可された。
【方法】
 以下の点をリハ実施毎に評価し、経時的変化を検討した。
1.患肢への荷重度合い(荷重率%)
2.訓練時の歩行能力
患肢の荷重率は体重計に一脚ずつのせ、平行棒を把持させた状態で患肢に疼痛がない範囲で最大限に荷重させ、その値と体重との比率とした。歩行能力は平行棒内立位・平行棒内歩行・歩行器歩行・一本杖歩行の4段階に分類した。さらに、当院の先行研究での受傷前独歩患者の歩行器歩行訓練導入まで平均11日との指標を基に12日未満で到達した群と12日以上要した群に分け、荷重率と各歩行訓練到達日数において比較した。統計学的処理にはt検定と単回帰分析を用いP<0.05をもって統計学的有意とした。
【結果】
 歩行器歩行訓練まで12日未満で到達したのは23名中17名(以下12日未満群)、12日以上要した群は6名(以下12日以上群)であった。HDS-Rは12日未満群平均10±5.4点、12日以上群平均14±4.4点で、両群に有意な差は認められなかった。年齢、術前・術後リハ開始までの日数、術後リハ実施期間においても両群に有意な差は認められなかった。
?歩行器歩行訓練までの日数において平行棒内立位は12日未満群、12日以上群の順に平均2.4±0.9日、3.3±1.8日。同様に平行棒内歩行開始は平均4.1±1.3日、7.3±1.8 日。歩行器歩行開始は平均7.0±2.0日、17±7.0日。杖歩行開始は平均13.0±3.1日、28±1.4日であった。また12日未満群の各歩行訓練レベルと到達日数、12日以上群の各歩行訓練レベルと到達日数にはそれぞれ相関が認められた。(P<0.01)
?荷重率において平行棒内立位は12日未満群、12日以上群の順に平均23.4±11.1%、29.9±14.5%。同様に平行棒内歩行は平均29.4±10.8%、45.4±11.1%。歩行器歩行は平均44.0±11.7%、58.1±22.9%。杖歩行は平均54.4±10.4%、76.8±19.0%であった。12日未満群と12日以上群を各歩行訓練レベルで比較すると、平行棒内立位と平行棒内歩行では12日以上群が有意に高い荷重率を示し(P<0.01)、それ以外の歩行訓練レベルの比較でも12日以上群が高い傾向を示した。また12日未満群の各歩行能力段階での荷重率と12日以上群の各歩行能力段階での荷重率にはそれぞれ相関が認められた(P<0.01)。
【考察】
 大腿骨頚部骨折の術後リハの阻害因子として高齢・痴呆があげられる。しかし、今回の結果では両者とも12日未満群と12日以上群で比較すると有意な差は認められなかった。その原因のひとつとして波多野らが報告しているように高齢者の術後活動性不良の因子には痴呆のほか心理・精神状態、意欲の低下があり、これらの影響も大きく関与しているため年齢・痴呆のみが大きな因子とは成り得なかったことが推測される。12日未満群と12日以上群で荷重率には統計学的有意差はみられなかったが、12日以上群の方が荷重率が高い傾向を示した。このことから痴呆を有している場合、認知機能面の低下により荷重率による大きな能力変化はみられないと考えられた。しかし、両群ともに歩行能力と荷重率の間に相関が認められたことから、患者一人一人の歩行能力の向上においては簡単な指標とすることは可能と考えられる。
 日数においては12日以上群の各歩行訓練導入までに12日未満群の約2倍の日数を要していることから、歩行器歩行訓練まで12日未満であれば早期に歩行能力の再獲得がしやすく、12日以上となると再獲得まで日数をより要しやすく、歩行能力の再獲得も困難となりやすい結果が得られた。受傷前に独歩が自立している場合痴呆を有していても早期に歩行器歩行訓練まで到達することができれば、より短期間で歩行能力再獲得が期待でき、歩行器歩行訓練導入までに要する日数は治療計画の指標と成り得ると考えられた。
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© 2004 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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