九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第26回九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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要介護認定の妥当性について
要支援と要介護1の比較
*早瀬 名月村田 伸
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キーワード: 要支援, 要介護1, 妥当性
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p. 32

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抄録

【はじめに】
 2000年4月に介護保険制度がスタートして以来、要介護認定者は徐々に増加し、3年3ヶ月で約143万人、66%の増加率を示した。なかでも、要介護1の認定者が最も増加し(105%の増加率)、他の認定者と比較してもその数は急増している。介護保険制度や制度を利用するために必要な要介護認定に関する研究は数多く報告されているが、それらは、重度の要介護認定者に関する報告が多く、要介護1や要介護予備軍とされる要支援と判定された高齢者を対象とした研究報告は少ない。
 そこで本研究は、要介護認定において、要介護1あるいは要支援と認定された在宅高齢者の身体能力および活動能力を評価することで、介護度別の身体能力や活動能力の特徴を明らかにする。そして、これらの特徴を手がかりに、要介護1の判定を要支援に改善させるための方略を検討する。
【方法】
 対象は、3カ所の通所リハビリテーション施設を利用している在宅障害高齢者で、重度の痴呆がなく、要介護認定が要介護1もしくは要支援と判定された75名(平均81.7歳)である。なお、要介護1群37名と要支援群38名における個人特性(年齢、体重、Mini-Mental State Examination;MMS得点)、男女の割合や既存疾患の割合に有意差は認められなかった。
 調査は、個人情報の収集やMMS実施後、老研式活動能力指標(以下活動能力)、ADL評価(Barthel Index)、握力測定、下肢筋力(大腿四頭筋)の筋力測定、片足立ち保持時間測定、重心動揺測定、歩行速度を測定し、2群間を比較した。
【結果】
 各測定項目間の相関分析:要支援群38名における各測定項目間の相関性は、重心動揺に関しては、他の測定値との間に負の相関性を示す傾向に止まったが、他の測定値間では、有意な正の相関性が認められた。要介護1群37名における各測定項目間の相関性は、活動能力を除いては、要支援群の結果とほぼ同様の結果を示した。活動能力は、ADL得点と握力値との間に有意な正の相関性を認めたが、その他の歩行速度、片足立ち時間、重心動揺、下肢筋力とは有意な相関性が認められなかった。
要介護1群と要支援群の比較:要介護1群と要支援群の2群間の比較において、有意差が認められたのは活動能力のみであり、要介護1群が要支援群より有意に劣っていた。その他の項目については有意差は認められなかった。さらに、要介護認定(要支援と要介護1)を目的変数としたロジスティック回帰分析(説明変数:性別、活動能力指標、ADL得点、握力、大腿四頭筋筋力、片足立ち保持時間、重心動揺、歩行速度)を行って、要介護認定に関与する因子を検討したが、オッズ比が有意であったのは、活動能力(OR=0.65,95%CI=0.49-0.86)のみであった。
【考察】
 今回の結果から、上下肢の筋力や立位バランス、及び歩行能力やADL能力が、介護の必要性を決定する重要な要因であるにもかかわらず、要介護1と要支援の判定には影響力が乏しく、むしろ、これら身体能力を生活に使用するか否かの活動能力によって判定されていることが示唆された。また、相関分析の結果から、要支援群では、潜在的な身体能力を居宅生活の中での活動に生かせているが、要介護1群では、身体能力を居宅生活において、十分に生かせていないことも示唆された。
 本研究結果は、在宅高齢者における要介護1の判定を要支援に改善させるためには、潜在的な身体能力を居宅生活に生かすことの重要性を示唆するものであり、従来から行われている身体的リハビリテーションに加え、高齢者の身体能力を実際に活用するための心理・社会的アプローチの有効性が示唆された。

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© 2004 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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