抄録
【はじめに】
近年、社会の高齢化に伴い、高齢者のQOLが重視されるようになってきている。今回、その実態を知ることは重要と考え、健康高齢者およびデイサービス利用者(以下、デイ利用者)を対象に、QOLの中でも健康状態に直接起因する健康関連QOLにおいて包括的に評価できるMOS Short-Form 36-Item Health Survey(以下、SF-36)を用いて調査した。
【対象】
健康高齢者102名(年齢,性別,家族構成,配偶者の有無の項目を加え、自己記入式で実施。平均年齢73.5±6.5歳)、デイ利用者201名(さらに疾患,要介護度の項目を加え、面接式で実施。平均年齢77.6±8.7歳)で、質問紙が理解できる者とした。
【方法】
SF-36は、その妥当性,信頼性が検証され、性別,年代別に国民標準値も算出された健康関連QOL尺度である。36項目より構成されており、その下位尺度は身体機能(以下PF),日常生活機能・身体(以下RP),体の痛み(以下BP),全体的健康感(以下GH),活力(以下VT),社会生活機能(以下SF),日常生活機能・精神(以下RE),心の健康(以下MH)であり、この8下位尺度より身体的健康度(以下PCS)と精神的健康度(以下MCS)の因子得点が算出される。今回,各尺度において国民標準値との比較を行い、健康高齢者群とデイ利用者群、デイ利用者群で統計処理(2標本t検定)を行った。
【結果】
健康高齢者群は、2因子,8尺度でデイ利用者群より有意に高かった(P<0.01)。さらに、PCSを横軸,MCSを縦軸の2次元平面に、全対象の因子得点であるPCS値,MCS値を散布させたところ、健康高齢者群のPCS値,MCS値が高値に、デイ利用者群のPCS値,MCS値が低値に分散しており、健康高齢者では主に第1相に,デイ利用者では第2から4相に分散している。
デイ利用者群において、配偶者の有無では、無配偶者がPCS,PF(P<0.01)で有意に、SF,MH(P<0.05)で有配偶者より高く、さらに女性群では、無配偶者がPCS(P<0.01)で有意に、PF,RP,SF(P<0.05)で有配偶者より高かった。また、要支援・介護1,介護2・3,介護4・5の各群において、配偶者の有無に関して統計を行った。要支援・介護1(無配偶者)が、PCS,SF(P<0.01)で有意に、PF,RP(P<0.05)で要支援・介護1(有配偶者)よりも高かった。介護2・3(有配偶者),(無配偶者)、介護4・5(有配偶者),(無配偶者)では、有意差はみられなかった。
【考察及びまとめ】
結果より、健康高齢者とデイ利用者群間で、PCS,MCSともに健康高齢者群が有意に高く、2群間のQOLは全く異なるものであると考えられる。デイ利用者は、何らかの疾患を抱えており、疾患による身体機能の低下,疼痛が活動制限因子となり、外出することが億劫になることや、それが在宅に引きこもらせる原因となるなど、より活動範囲や交際範囲を狭めているのではないかと考えられる。世代間での価値観の相違などのため孤独感が強くなることや現疾患に対する精神的なストレスが心理的健康状態を低下させ、不安や抑うつになるなどが考えられる。これらのことより、PCS,MCSが低下していると考えられる。デイ利用者群では、無配偶者が有配偶者よりもPCSが有意に高かった。また、配偶者の有無を環境の一部とし、要介護度別に3群にわけ、統計処理を行った結果、要支援・介護1群では、無配偶者でPCSが有意に高かった。自立度の高いもの(要支援・介護1群)では、無配偶者が日常生活で自分自身が行っているものを日々行っており、交友関係にも特に問題は無く、これらのことがPFを高め、PCSに有意差がみられたと考えられる。また、配偶者がいることにより、依存してしまう可能性があると考えられる。配偶者の存在により、MCSに関係する尺度が、自立度によらず現れることが考えられたが、自立度の低いもの(介護2・3,介護4・5群)に関しては、配偶者の有無は、QOLに影響しない傾向にあった。今回の調査でこのような結果となったのは、配偶者は一つの因子であり、他に重要な因子が存在すること、データ数が不十分であったことが考えられる。また、今回、夫婦関係や死別時の年齢、死別後の経過などを調査していないため、考慮する必要があったと考える。これらのことを踏まえ、今後、さらに調査・検討を行っていくことが重要と考える。