九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第26回九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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椎体骨折を呈した患者の症例像について
*松田 奈穂中村 勝徳五十峯 淳一中村 裕樹
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p. 44

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抄録

【目的】
 椎体骨折は加齢とともに増加傾向にあり、その原因の一つとして骨強度の低下が考えられる。加齢とともに骨量は徐々に低下し、骨組織が脆弱化することで骨の強度も低下し骨折を呈するだけでなく、脊柱の変形にも影響を与えるものと思われる。
 そこで今回、椎体骨折と骨量の関係及び当院での治療プログラムを施行した結果、受傷椎体はどのような変形傾向があったかデータを採取し若干の知見を得たのでここに報告する。
【対象と方法】
 H15年からH16年2月までに当院を受診し、椎体骨折の診断を受けた患者27名(男性1名・女性26名,平均年齢77.2歳)のデータを採取。条件として、受傷時に膀胱直腸障害・不全麻痺等がないものとした。
 受傷時と経過X-P撮影時(平均3.2ヶ月)の羅患椎体の高さを測定。椎体の高さは任意に前・中・後方をそれぞれA・C・P値として測定した。また、X-P撮影時に東洋メディック社製DTX200を使用し、橈骨にて骨量の測定を行った。
 当院の治療プログラムとして、受傷時に体幹ギプスで羅患椎体の固定を行い、約一週間で支柱付き軟性コルセットに変更。疼痛の強さに応じて神経根ブロック等の処置を行っている。
【結果】
1.年齢の増加に伴い骨量の低下が認められ、YAMの70%以下は16名であった。YAMの70%以上の群と以下の2群に分け分析した結果、年齢と骨量の低下に有意差が認められた。(P<0.05)
2.骨量の低下とその後に受傷椎体が変形した値の差に有意差が認められた。(P<0.05)
3.下位腰椎において初発の椎体骨折では後方の圧壊が多く、受傷椎体より高位に既往で椎体骨折を呈していた患者の場合、前方及び中央の圧壊傾向があった。
4.受傷時と経過X-P撮影時の羅患椎体に著明な変形はほぼみられなかった。
【考察】
 データ採取の結果、椎体骨折を呈した患者の年齢と骨量の低下には有意差が認められ、加齢に伴う骨量の低下が再確認された。また、受傷後に羅患椎体の変形を生じた患者は骨量がYAMの70%以下だった群に多く、これは骨量の低下が骨の強度の低下を反映したものと考えられた。
 下位腰椎では椎体の後方に負荷が加わりやすいとされるが、今回のデータでは受傷時に後方が圧壊されている群と前方及び中央が圧壊されている群がみられた。前方及び中央が圧壊された群において、受傷椎体より高位に既往の椎体骨折を生じている傾向がみられたことから、初発の椎体骨折時に羅患椎体の変形が生じた場合、脊柱へ影響を与え全体のアライメントが崩れたものと考えられる。
 脊柱のアライメントが崩れ、円背や脊柱の後弯が強くなれば重心が前方に移動する。よって、下位の椎体には前方から中央への負荷が加わりやすくなったのではないかと考えられる。
 また、今回当院で行われている治療プログラムを通して羅患椎体の経過を追った結果、椎体の著明な変形はほとんど認められなかった。
 椎体骨折では脊柱の安定を図るため、体幹ギプスで固定した後、硬性コルセットの使用を行うことが多い。しかし、体幹ギプスや硬性コルセットは日常生活を過ごす中で不便な面が多く、活動性が低下する傾向にあり、また患者自身にストレスを与える可能性が考えられる。
 当院では、支柱付き軟性コルセットを受傷時より約3ヶ月から羅患椎体の状態に応じて6ヶ月の装着を行っているが、その後、受傷前のADLレベルより低下した症例はなかった。受傷時より硬性コルセット等でなく、支柱付き軟性コルセットを使用しても、脊柱の安定を損なわず、さらに日常生活で患者が活動性を保ち、精神面でも患者のストレスを軽減できたものと考えられる。
 椎体骨折を呈した患者は骨量の再獲得が必要とされ、内服治療のほか、運動療法や日常生活での活動性の向上が大事になると考えられる。よって、脊柱の変形を最小限にとどめ、活動性を保てることは今後の椎体骨折の再発予防にもなるのではないだろうか。
 今回の研究においては、データを採取するにあたり、椎体骨折の症例数が少なく、また経過についても多少のばらつきがあったため、今後の課題としていきたい。
【まとめ】
 椎体骨折を呈した患者は骨量の低下が起因し、その後の羅患椎体に変形を来たしやすい。受傷後、脊柱の安定が必要となり、さらに骨折によるADLの低下を防がなくてはならないが、当院の治療プログラムにおいて、支柱付き軟性コルセットを使用したことにより、脊柱の安定及び日常生活の活動性を保つことができたと考えられる。

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© 2004 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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