九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第26回九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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保育士から問題行動を指摘された幼児のJMAPの特徴
*十枝 はるか仙石 泰仁岩永 竜一郎
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キーワード: 問題行動, 障害児, 健常児
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p. 66

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抄録
【はじめに】
 軽度発達障害は、症状が軽度ゆえに現状の乳幼児健康診断では早期発見が難しく、就園,就学後、集団における行動の逸脱等の問題が顕在化されてはじめて指摘されることが多い。軽度発達障害児の早期発見の糸口は現場の保育士や教師の気付きに委ねられている。しかしながら、保育士や教師が気付き指摘する幼児,児童のなかには、明らかに診断のつく子どもがいる一方で、健常児と障害児の境界をなす子どもがいるのも実情である。作業療法士(OT)は保育士や教師により問題行動を指摘された子どもを評価する際、明らかに専門的支援が必要な発達障害が疑われる子どもと、クラス内での支援でも十分生活がしやすくなる子どもとの判別を行うことが重要であると思われる。
 我々は、保育士が問題行動を指摘した幼児が専門機関での支援が必要なのかクラス内での支援でも十分なのかを判別する指標を見出すために、保育士が問題を指摘する幼児を対象に日本版幼児発達スクリーニング検査(JMAP)を実施し、その結果を障害児の特徴を報告した先行研究と比較した。
【方法】
 対象は、研究協力に同意を得たA市の保育所6ヶ所に在籍する全年長児うち、すでに専門機関で診断されている幼児を除き、保育士により何らかの問題が指摘されJMAP施行の協力が得られた25(女児10,男児15)名とした。月齢は67.54±3.24ヶ月(5歳2ヶ月~6歳1ヶ月)であった。手順は、3つの段階を経た。まず、段階1として担当保育士へ質問紙適応行動尺度(ABS)を実施し「不注意,多動性-衝動性」を示す幼児を挙げてもらい、段階2として調査者が保育士からの情報収集ならびに約1年間の参与観察を行い「不注意,多動性-衝動性」があることを確認し、段階3としてJMAPを施行した。
 ABSは、第2部の「過動傾向」の項目を抜粋し用いた。JMAPは、基礎能力指標として基礎的な神経学的能力の領域を評価するもの(10項目)、協応性指標(7項目)、言語能力指標(4項目)、非言語能力指標(4項目)、複合能力指標(4項目)から成り、指標ごとに通過率下位5%以下を危険域,下位25%以下を注意域,それ以上を標準域とした3段階の通過率で示すことができ、下位25%以下に属する幼児は精密検査を勧められることになっている。
【結果】
 質問紙ABSの「過動傾向」があるとされた児は3(女児1,男児2)名で「ペチャクチャおしゃべりしている」,「動き回っている」などが当てはまるとされていた。さらに情報収集により「じっと座っていることが困難で動き回る」,「指示が終わらないうちにすぐに行動に移してしまう」などが指摘された幼児がさらに3名加わり、「不注意,多動性-衝動性」と思われる行動を指摘され幼児は、合計6(女児1,男児5)名であった。なお、この6名は、作業療法士の参与観察によってでもこれらの行動は確認された。JMAP施行時の平均月齢は73.12±2.75ヶ月(5歳9ヶ月~6歳4ヶ月)であった。
 総合点では、通過率下位25%以下を示す幼児は1名しかいなかった。指標別では、言語指標の下位25%以下を示す幼児は5名(83.3%)と最も多く、複合能力指標の下位25%以下を示す幼児は1名で、基礎能力指標,協応性指標,非言語性指標いずれも下位25%以下を示す幼児はいなかった。言語指標25%以下を示す幼児5名すべては検査項目「指示の理解」においてミスが見られた。
【考察】
 本研究の結果は、注意欠陥/多動性障害(ADHD)児の診断基準でもある「不注意,多動性-衝動性」の行動を認める幼児でもJMAPの基礎能力指標の通過率下位25%以下を示す幼児がおらず、ADHD児の多くは基礎的な神経学的問題が見られるとする先行研究と相違が見られた。今回のケースは、「不注意,多動性-衝動性」は認めながらも神経学的検査の低遂行を示すADHD児とは違い、言語指標課題のみ低遂行という特徴のある別のタイプであり、別内容の支援が必要であると推察された。JMAPでの個人内差をみることで、同じ問題行動でも背景にある問題別に判別でき、より適切な支援内容がそれぞれに提供されうると考えられる。
 今後、「不注意,多動-衝動性」の行動を示すが神経学的な検査で問題を示さないケースが、障害児と健常児との境界をなすタイプなのかを経過を追いながら、神経学的検査の低遂行と言語指標課題の低遂行が、健常児と境界児の判別に役立つ指標となる可能性について検討を重ねていきたい。
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© 2004 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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