九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
Online ISSN : 2423-8899
Print ISSN : 0915-2032
ISSN-L : 0915-2032
第26回九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
会議情報

発達障害領域における作業療法の効果
目標達成までの経過 一症例を通して
*江渡 文吉田 勇一森 真里子橋本 紀子
著者情報
キーワード: 発語, 環境, 目標達成
会議録・要旨集 フリー

p. 65

詳細
抄録
【はじめに】
 発達障害をもつ子どもさんに作業療法を実施する際、本人を取り巻く環境の理解やご家族の協力を得る事は、目標設定及びその達成に必要不可欠である。今回言語に関して、年齢に対し遅れはあるものの理解可能で、口腔機能に大きな問題がないにも関わらず、発語によるコミュニケーションが広がりにくい一人の子どもさんに対し、段階的に環境及び家族の関わり方を変化させる方法でアプローチを実施した。結果、目標達成できたのでここに報告する。
【症例紹介】
 独歩可能な4歳5ヶ月の女の子。診断名は染色体異常症。現在当センター肢体不自由児施設通園部と地元の保育園に並行通園中。家族構成は祖母、両親、兄、姉、本人の6人家族。日常生活動作は食事は自立。他は家族に対する依存が強く、行っていない。発達は遠城寺式発達検査表にて運動・対人面・言語理解は約3歳レベル、発語面では約1歳4ヶ月レベル。実際の発語は「いや・パパ・ママ・にいにい(兄)・ねえねえ(姉)」程度で、それ以外の有意味語の表出は殆どない。口腔機能は未熟だが発語に関して特に問題なし。環境として家庭では身振りなどで用件が通じて家族が何でもしてくれ、保育園では友達が率先して手伝ってくれるので発語の必要性がなく、通園部でもほぼ同様の状況。又本人がかわいいため、周りの人も「言葉で頼まれなくても何でもしてあげる」という環境である。
【方法及び経過】
 母親と話し合い、今の環境では本人が発語の必要性を感じていないが、就学時に発語でのコミュニケーションがとれなくては困る事を説明し、改めて発語を促す重要性を感じてもらった。発語の内容に関しては今迄何でも「人がしてくれる」ことが当然になっていたため、自分から人に依頼するという状況を感じ、身振りでなく発語で行えるよう「おねがい」の一言を促し、状況に合わせて一人で言えるようになる事を目標とした。現状としてOTの時間大好きな自転車に乗るにも、「乗りたい事」を母親がTh.に言ってくれるよう身振りで示す、自転車はTh.が出すものとただ待っている、他の部屋に行くにもTh.がドアを開けるのを待っているという受身の状態であった。そこで、最初は何でも「一緒に~してみよう」と促し、手を添えて行い、徐々に本人の力に任せるように変えていった。要領が理解できた頃「~ちゃん一人でできるかな?」と伝え、本人が身振りで手伝いを求めてきたら『一人でやってみて。できなければ「おねがい」って口で言ってみようか。そしたら手伝うよ』と伝えるようにした。最初一人での発語は難しかったため、「お」「ね」「が」「い」と一語ずつ真似るようにし、言えるようになったら「おね」「がい」に分け、更に「おねがい」とまとめて真似るよう促した。一言で言えるようになったら「手伝って欲しい時は何ていうのかな?」と伝え、自ら考えて発語してもらうようにした。それぞれの過程で少しでも頑張れたら必ず誉めるようにした。母親にはOT中のTh.と本人のやりとりを見て理解してもらい、家庭でも身振りの要求に対しすぐに手を貸すのではなく本人の反応を待つ事、必要な時に「おねがい」を促してくれるよう依頼した。
【結果】
 H.14年9月:「おねがい」の必要性が理解できていない。H.14年9月末:「おねがい」の必要性は理解でき、一語ずつTh.の真似をする。H.14年10月からH.15年1月:「おね」「がい」を真似する。H.15年1月から5月:状況にあわせ、時々一人で言える。H.15年6月:状況にあわせて常に一人で言えるようになる。約10ヶ月で目標達成。自分の発語によって人が「手伝ってくれる」ことがうれしく自信にも繋がった様子で、他にも「おいで・おはよう・先生」など発語が増え、積極的に人に話しかけるようになってきた。家族も喜び、更に発語が増えると報告してくれるようになった。
【考察】
 最初、周りの人と違って依頼や発語を促すTh.に対していらだち怒ることもあった。しかし発語の必要性を理解して欲しかったため、アプローチを継続し少しでもできたら必ず誉めることを繰り返した。家庭でも少しずつ環境を変えてもらったため、徐々にではあったが変化がみられ必要に応じて「おねがい」が言える様になった。母親も何でも手を貸すだけでなく「自分でしてみて」「お口で言って」など口にするようになった。「おねがい」一言に長い期間を要したが、生活に発語が必要である事を本人が理解できたと思われ、その結果発語が増えてきたと考えられる。
【まとめ】
 小さくかわいい子どもさんも必ず大きくなることを考慮し、作業療法士として本人に適した目標設定を行い、周りの環境を考慮した上でご家族と協力しながら達成していく事が重要な役割であると考える。
著者関連情報
© 2004 九州理学療法士・作業療法士合同学会
前の記事 次の記事
feedback
Top