抄録
【はじめに】
当院は介護型病床群を有し、長期入院患者が多い傾向にある。その中で病棟での活動を有意義に行っていく必要がある。今回当院は心理的、生理的、身体的な効果を期待し、平成15年3月から施設訪問型アニマル・アシステッド・セラピー(以下AATと略す)を導入した。AATにおいてのOTとしての関わり方について経過、症例紹介を含め報告する
【目的】
・リハビリへの関心、モチベーションの向上
・ 臥床傾向の改善
【対象・導入方法】
長期療養型、介護型病棟の患者57名のうち、?事前に本人、家族に面談し、動物好きで動物アレルギーがない方、?車椅子座位が可能な方、?呼吸器疾患がない方、?主治医より許可がある、以上の条件を満たした10名により病棟ごとのグループを作り、2週間に1度、午後から30分程度行う。AATの活動中は常時看護師2名、看護助手2名、OTR1名、施設訪問型AATスタッフ2名にて様子観察、声かけを行っていく。終了後はスタッフ間での意見交換を行う。
【経過】
導入時は参加者も受身的な姿勢が強かった。そこで消灯台に動物の写真をおく、AATの開催日に印をつけたカレンダーを掲示するなどを病棟スタッフと協力し行なった。また、リハビリの際もAATの話題を行うようにPTにも協力を求めた。回数を重ねるにつれ徐々に能動的に動物に触れたり、「次はいつあるのか」との発言も聞かれるようになった。
その中でOTでの活動にも変化があった1症例について紹介する。
・症例紹介:70歳女性。脳梗塞(右麻痺、痴呆あり。語性錯語。喚語困難)。基本動作は寝返り自立レベル。起居動作半介助レベル。座位監視レベル。立ち上がり動作全介助レベル。立位動作不可。ADLは更衣動作、整容動作、排泄動作(オムツ使用)入浴動作全介助レベル。食事動作半介助レベル。整容動作、更衣動作、食事動作においては出来る動作を行おうとせず、スタッフに介助を求める。リハビリに対してのモチベーション低く、訓練に対する言語的、行動的な拒否みられる。日中は臥床してテレビを見ている事が多く、体交を介助者が行っている。
AAT参加以前はリハビリに対して拒否的であり、訓練はベッドサイドで行うことが多かった。本人自身からは身体機能改善に向けての前向きな発言は聞かれる事はなく、「このままでいい」「大変な事、疲れる事はしたくない」といった発言が多く聞かれた。AAT参加当初は動物に対しての関心薄く自ら動物に触れようとしたりせずに受身的であった。スタッフの促しではあったが徐々に動物に触れたり、抱いたりするようになった。家族、スタッフの間でも会話の内容が増え、時折ではあるがリハビリへの受け入れをするようになり、ベッド上ではあるがパズル、絵画を行うようになった。現在では色々な手工芸を提示したところ自ら機織りをしたいと希望し、作品を制作するようになった。
【考察】
長期療養者にとって「楽しみ」を見つけることは容易ではない。そこで、今回当院にてAATを「楽しみ」の一つとして導入することを試みた。導入後、参加者の中に多少の心理的又は身体的な変化がみられた。
症例に関して、AAT参加前はOTの受け入れは拒否的な事が多く、OTを受け入れても継続して行なう事が出来なかった。しかし、AAT参加後、動物という興味の対象が明確になった事でOTRや病棟スタッフとの会話がスムーズになり、モチベーションの向上につながったのではないかと考える。
今回OTとしてAAT導入や活動に際してのアドバイスをするなど関わることができた。
今後は病棟スタッフとも連携し、OTとしてより深く関わっていきたい。