九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第27回九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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USN患者に対する方向性注意障害仮説に基づいた習字の効果
ー症例検討ー
*徳永 明子四元 珠紀四元 孝道山内 愛梅本 昭英日吉 俊紀窪田 正大
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p. 138

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抄録

【はじめに】左半側視空間無視(以下左USN)を伴う慢性期脳梗塞患者1例に習字を導入した結果,BITの改善及びADLの向上がみられたのでそれらの結果に若干の文献的考察を加え,報告する。
【症例】77歳男性。右利き。現病歴:2003.9.19に脳梗塞(右内頸動脈閉塞)罹患。既往歴:1928年腰椎骨折,1985年転落により頭部打撲・左下腿骨折。
【入院時評価】2003.12.15(発症3ヵ月後)
左上下肢運動麻痺(II,I,II),表在・深部感覚は中等から重度鈍麻。高次脳機能:左USN(BIT通常検査48/146点,重度),注意障害,失語,構音障害,聴覚・視覚的理解力の低下
ADL:B.I 10/100点(食事以外要介助)
【習字実施直前時評価】2004.8.19(発症11ヵ月後)
高次脳機能:BIT通常検査48/146→69/146点
ADL:B.I 10/100→25/100点(更衣,移乗,整容が改善)
【習字を利用したUSNに対する訓練方法】
病前より書字に興味があったことから,今回USNへの訓練方法として習字を導入した。課題は症例自ら選定し,準備・書字後のフィート゛ハ゛ックは担当OTと共に行った。実施期間は発症後11カ月より30分/1回,3回/Wで4カ月間実施した。
【改善点】2004.12.20(発症15カ月後)
高次脳機能:BIT通常検査69/146→113/146点
ADL:B.I25/100→35/100点(車椅子駆動自立,移乗軽介助)
【考察】入院時から習字実施までの11ヵ月でBIT通常検査が48/146→69/146点と21点改善した。さらにその後,USN訓練として習字を集中的に4カ月間実施した結果, 69/146→113/146点と41点改善がみられた。ADLも25/100→35/100点となり,なかでも車椅子駆動時の左障害物への接触消失,靴・装具の着脱手順把握・テーフ゜着脱忘れの改善がみられた。また,習字の効果の維持もできていた。Mesulam(1981)は,USNは方向性注意の障害とした上で,帯状回!)下部頭頂葉!)前頭葉!)網様賦活系が形成するネットワーク回路の障害により,USNが生じるとしている。帯状回は,反対側空間への情動の方向付け,下部頭頂葉は,反対側空間の知覚入力の統合・知覚表象図式の形成,前頭葉は,反対側空間での運動の開始・抑制に関する出力の統合・運動的探索を行っている。そして網様賦活系は,上記3つの領域を賦活して覚醒的基盤を与えているとしている。これらのメカニス゛ムと習字の特性を比較すると,習字への関心や手本照合による左右探索等は帯状回,作業範囲の拡大や字の大きさ等は下部頭頂葉,習字の開始・終了のコントロールは前頭葉が担っていると推測される。習字がこれらのネットワーク回路に相互的にハ゛ランスよく機能した為,USNが改善したと思われる。

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© 2005 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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