九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第27回九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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運動連鎖機能不全からのアライメント異常と捉えアプローチした両肩関節拘縮の理学療法
*阿南 雅也奥村 晃司木藤 伸宏佐々木 誠人川嶌 眞人
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p. 150

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抄録
【はじめに】
 肩関節拘縮に対する理学療法の目的として、疼痛軽減と関節可動域改善が挙げられる。しかし、肩関節は胸郭上に浮遊した関節であり、運動連鎖によって機能的に連結し身体各部からの影響を受けやすい。よって、肩関節可動域改善のみでなく運動連鎖を効率よく行える機能性を獲得できることが重要である。今回、両肩関節拘縮に対する理学療法において、アライメント異常と運動連鎖機能不全を臨床指標としてアプローチを行い、症状改善が得られた症例について報告する。
【症例紹介】
 性別:女性 年齢:53歳 職業:美容師 診断名:両肩関節拘縮 現病歴:平成16年7月20日、自宅で重量物を抱えてから首から両肩に疼痛出現。症状改善しないため同年8月16日、当院受診し頚椎牽引と薬物療法施行。頚部痛は軽減するが両肩痛改善しないため同年12月2日、右肩関節鏡視下授動術および左肩関節徒手的授動術施行。既往歴:右膝半月板損傷(50歳)
【術前評価】
 疼痛:安静時(-)、夜間時(+)Visual Analogue Scale(以下VAS)5/10、運動時(+)VAS10/10全動作方向に出現、圧痛(-) ROM(Rt/Lt):肩関節屈曲140/135・外旋35/35・内旋10/10、膝関節伸展-10/-5 アライメント:上部体幹左側屈・左回旋・左側方変位、頭部前方変位。上半身重心は正中線より左前方へ変位。挙上動作:肩甲骨外転位であり、運動連鎖機能不全により肩甲上腕リズムが乱れた状態で挙上している。日整会肩関節疾患治療成績判定基準:48点
【理学療法アプローチ】
 理学療法では肩関節安定化機構の再構築のみではなく、HAT(Head-Arm-Trunk)および上部体幹機能の改善に着目し、下部体幹の安定性向上により上半身重心の正中化、アライメント改善を得ることを目的とした。この中で上半身重心の異常変位は外傷による右膝半月板損傷がターニングポイントとなり下部体幹の安定性低下、骨盤-下肢の運動連鎖機能不全を生じたと考えられる。また、日常の作業的要因によるHATの安定性低下、運動連鎖機能不全が絡み合ってアライメント異常が起こり、肩関節の安定化機構が破綻して病態が進行したと推測しアプローチを展開した。
【最終評価:術後3ヶ月】
 疼痛:夜間時(+)VAS 3/10、運動時(+)VAS5/10 ROM(Rt/Lt):肩関節屈曲150/155・外旋60/50・内旋30/20、膝関節伸展-5/-5 アライメント:右膝関節屈曲位の改善、骨盤右側屈・右回旋、上部体幹左側屈・左回旋・左側方変位、頭部前方変位の改善、上半身重心の正中化が認められた。挙上動作:アライメント改善により代償動作が改善した。日整会肩関節疾患治療成績判定基準:88点
【結論】
 肩関節拘縮に対する理学療法戦略は、ただ単に肩関節周囲の可動域改善・筋力強化のみアプローチするのではなく、身体全体のアライメントや運動連鎖にも注目し、アプローチすることが重要である。
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© 2005 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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