抄録
【目的】
鼠径部痛症候群は、サッカー選手に特徴的な疾患である。発生要因としては、股関節周囲の拘縮や筋力低下、インサイドキック時の上体の後傾、それに伴う長内転筋の筋活動の増加等が報告されている。
そこで今回、鼠径部痛症候群及び腰痛の発生要因について以下の方法で検討した。
【対象及び方法】
鼠径部痛症候群、腰痛を訴える選手3名(高校生2名、社会人1名:以下P群)。痛みを訴えない選手3名(高校生2名、社会人1名:以下N-P群)とした。
1)鼠径部痛症候群の機能評価項目:(1)股関節のROM、(2)抵抗テスト(股関節内転・SLR・上体おこし)での疼痛部位、(3)股関節屈曲+内転強制での疼痛再現性テスト。
2)腰痛及び体幹ROM:(1)FFD、(2)体幹伸展、(3)Kemp-テスト。
3)インサイドキックフォーム分析のチェックポイント:(1)ボールに対する軸脚の位置、(2)キック脚のテイクバック、(3)ボールインパクト時の体幹の位置、(4)キック脚のフォロースルー(鼠径部周辺にストレスがかかっていないか)をビデオ撮影にて、矢状面及び前額面から観察し、P群、N-P群の比較を行なった。インサイドキックは十分なウォーミングアップ後にゆっくり正確なキックから、全力で強いキックを行なわせた。
【結果及び考察】
1)機能評価の股関節ROMは、P群、N-P群に著明な差はないが、P群は鼠径部周辺の筋緊張が亢進していた。P群の抵抗テストは股関節内転で長内転筋、股関節屈曲+内転強制で鼠径部周辺に疼痛を認めた。2)腰痛及び体幹ROMはP群にFFD制限がみられ、体幹伸展、Kemp-テストでPVMに腰痛を認めた。3)インサイドキックフォームチェックでは軸脚の位置はP群、N-P群で一定はしなかった。P群はテイクバックが大きく鼠径部周辺筋群への伸張ストレスが予測された、N-P群は股関節外転・外旋位でテイクバックが小さかった。P群は、体幹が後傾位で回旋し、腰部に伸展・回旋ストレスが過度に加わる事が予測された。N-P群は、体幹が後傾せず腹筋群が緊張し、腰部への伸展・回旋ストレスは回避されていた。P群は、体幹後傾位でキック脚が股関節屈曲・内転しており、鼠径部周辺へ圧縮ストレスが生じ、繰り返される事で鼠径部痛症候群が発生すると予測された。N-P群の体幹は、腹筋群が緊張し、キック脚は股関節屈曲・外旋し鼠径部周辺への圧縮ストレスを回避していた。
今回、鼠径部痛症候群、腰痛の発生要因を検討した結果、機能評価の股関節ROMはP群、N-P群に著明な差は認めず、インサイドキックフォームの違いに鼠径部痛症候群及び腰痛発生の関連が認められた。今後症例数を増やし更に検討していきたい。