抄録
【はじめに】
統合失調症者では注視点の変更が出来にくい行動特性があると言われている。今回、図形抽出形式のテスト用紙を作成し症状による違いや探索範囲の特徴などを調べたので報告する。
【対象】
統合失調症と診断された男性26名・女性16名・合計42名、平均年齢43.4±8.81歳を対象とした。比較分類群は陰性症状・陽性症状評価尺度(以下PANSSと略す)にて構成尺度得点3点以上を陽性群、-8点以下を陰性群として各12名ずつを比較した。機能の全体的評価尺度(以下GAFと略す)は21点から10点ずつ80点まで6(AからF)グループに分けて各7名ずつを比較した。
【方法】
テスト用紙はA4版とA3版の2種類の紙面を用い12種類384個の図形の中から同種類32個を探索し抽出する課題にて行った。試行時間は1個を1秒間と想定し1枚32秒間に設定した。探索範囲を検討するため抽出する図形は用紙全体に配置し、上下・左右・内外の数的比率を均一にした。
【目的】
PANSS分類における探索活動の差を図形抽出率にて検証し面積変化における探索範囲の特徴を図形未抽出率にて検証した。また、GAF分類における探索活動の差を図形抽出率にて検証した。統計処理は分散分析にて検定した。
【結果】
PANSS分類における平均構成尺度得点は陽性群7.0±3.98点で陰性群-10.6±5.20点であった。平均抽出率は陽性群A4版47,4%・A3版49.5%で陰性群A4版47.4%・A3版42.2%で有意差は認められなかった。しかし、A4版とA3版の抽出率の差を比較すると有意差を認めた。抽出範囲の特徴として陽性群はA4,A3版ともに上下比較において有意差を認めた。陰性群ではA4版で左下と右上以外の上下比較で有意差を認め、A3版では左下と右上以外の上下比較と左右比較でも有意差を認めた。陽性群と陰性群間で抽出範囲を比較するとA4版は右上に有意差を認め、A3版では上側と右上に有意差を認めた。GAF分類におけるA4,A3版の平均抽出率はA群34.8%・41.1%,B群43.8%・38.8%,C群49.1%・47.3%,D群56.7%・62.1%,E群66.5%・68.3%,F群58.5%・68.8%であり、A4版ではA群に対しD・E・F群,B群に対しE・F群がそれぞれ有意差を認め、A3版ではA群に対しD・E・F群,B群に対しD・E・F群,C群に対してもE・F群に有意差を認めた。
【考察】
陽性群と陰性群における抽出率の比較では有意差は認められなかったが、A4版とA3版の抽出率の差を比較すると有意差を認め探索面積の変化による抽出率への影響は精神症状との関連性が示唆された。抽出範囲の特徴として陽性群では全ての上下比較で有意差を認めたのに対して、陰性群では左下と右上以外の上下比較と左右比較でも有意差を認めたことから陰性群は陽性群に比べ面積が広がるほど探索に時間を要することが考えられた。また、陽性群と陰性群間で未抽出率を比較しても右上と上側比較で有意差を認めたことから陰性群では情報提供を狭い範囲に環境設定する必要性があることが示唆された。GAF分類では機能レベルにおいて有意差が認められ、心理・社会・職業的機能との関連性も深いことが考えられた。