九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第28回九州理学療法士・作業療法士合同学会
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手指伸筋腱皮下断裂に対するスプリントを用いた早期運動療法の経験
*野中 信宏
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p. 27

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抄録
【はじめに】
 関節リウマチ(以下RA)の手関節部では、関節破壊に伴い、尺側指の伸筋腱皮下断裂が合併しやすい。その伸筋腱再建術後に運動制限を余儀なくされるため、指伸展不全や伸展拘縮が発生しやすい。特に尺側指の伸展拘縮はADL上非常に不便を生じる。今回、上記再建術例に対してスプリントを用いた早期運動療法を施行したので考察を加え報告する。
【症例】
 54歳、男性、右利き、事務職員。右中環小指の伸展不能を訴え、当院受診。右遠位橈尺関節脱臼、中環小指伸筋腱皮下断裂の診断にてSauve-Kapandji法と腱移植術を施行した。手関節部で断裂していた中環小指の伸筋腱に対しては、同側の長掌筋腱を採取してbridge graftし、手関節最大背屈位で指屈曲可となる緊張でinterlacing sutureした。
【術後セラピィ】
 手・指関節伸展位の静的スプリントを作製し、術後6週まで夜間装着させた。術後3週間は、1日2回のセラピィ時にIP関節自動屈曲運動、MP関節内外転運動、重力除去位での軽い自動伸展運動を行った。他時は、手・IP関節伸展位にてMP関節のみを動的に30度程屈曲可能な伸展補助アウトリガー付きのスプリントを装着させ、1時間に10回程MP関節を屈曲させた。術後3週からアウトリガーを除去し、同スプリント内にて指自動屈曲伸展運動を行った。術後4週でMP関節を60度程屈曲できるようにスプリントを修正し、術後5週でMP関節以遠の屈曲制限を除去した。また、自動掌屈運動を追加した。術後6週でスプリントを除去し、ADLにて患手使用させ、手・指他動屈曲運動を追加した。
【結果】
 術後10週時、前腕回内外可動域に制限なく、手関節は関節破壊のため、掌屈制限を認めたが、術前と差はなかった。指自動運動時、MP関節屈曲/伸展可動域は中指80度/-5度、環指85度/-10度、小指90度/-15度でIP関節には制限を生じなかった。握力は健側比100%であった。
【考察】
 手指伸筋腱再建術後のセラピィでは、伸展不全と伸展拘縮と相反する両者を予防もしくは改善させることが最重要課題である。前者は、RAでは一般的に手関節破壊で掌屈制限を呈することが多いため、腱固定効果での伸展力が得られにくく、伸展不全を生じやすい。そのため、術後翌日から自動伸展運動を徐々に開始し、また夜間に手・指伸展位スプリントを術後6週間継続することで対応した。後者は、特に尺側指の場合、伸展できないことよりもさらにADL上不満足な結果になりやすい。そのため、伸展拘縮を呈しやすいMP関節に着目し、日中の段階的なスプリントを用いて対応し、また内外転運動を行うことで伸展拘縮の主たる原因である側副靭帯の伸張性低下を可能な限り予防した。結果、軽度の伸展不全を生じたが、伸展拘縮は認められず、症例は支障なく現職復帰した。日中の段階的なスプリントと夜間スプリントを含めた早期運動療法は有用な方法であると思われた。
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© 2006 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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