抄録
【はじめに】
運動時拮抗筋を電気刺激してその収縮力を運動抵抗とする筋力増強法(以下,ハイブリッド法)を考案した.先行研究で肘・膝関節屈伸運動における安全性と筋力増強効果について報告したが,手指・手関節・前腕運動に関しては不明である.
【目的】
今回,手指屈伸運動における前腕筋群に対して6週間ハイブリッド法を行い,前腕筋群への影響とハイブリッド法の効果について検討した.
【対象】
ハイブリッド法を行う群(以下,HY群)が8名(平均年齢20.5歳),電気刺激のみを行う群(以下,ES群)が8名(平均年齢20.5歳),全く訓練を行わないコントロール群(以下,CTL群)が8名(平均年齢23.0歳)の計24名(全員右利きで骨関節に障害のない健常男性)を対象とした.
【方法】
非利き手の左前腕を対象とし,刺激部位は腕橈骨筋を挟んで,伸筋群と屈筋群に2極ずつ表面電極を貼付した.HY群は手関節と手指の屈伸動作時に拮抗筋を電気刺激し,その刺激に抗して運動を行い,刺激は屈曲・伸展運動が連続で10回施行可能な最大電圧とした.ES群は同一の電気刺激のみを行った.刺激時間は1動作2秒で10回を1セットとした.セット間での休憩を1分間で計10セットを週に3回とし6週間行った.
評価項目は掌屈・背屈,回内・回外筋力,握力,前腕筋断面積(MRI)とし,電気刺激の施行前,3週,6週終了時の3回行った.
【結果】
訓練毎にメディカルチェックを行ったが,すべての被検者で障害の発生は無かった.手関節背屈筋力においてHY群で10.4±2.5Nmが6週で13.1±2.4Nmと有意に増加したが(p<0.005),ES群・CTL群では,有意差を認めなかった.MRIによる筋断面積計測でも同様,伸筋群で615.5±127.7mm2から683.3±116.1mm2と増加した.手関節掌屈筋力の増加,同筋群の肥大は背屈に比べ明らかではなかった.また,握力では全群有意差を認めなかった.
【考察】
前腕伸筋において筋力増強およびMRIにおける筋肥大が認められたことは,本法が同部位の筋力増強にも十分に汎用の可能性があることを示した.屈筋や握力に対する筋力増強効果が明らかでなかったのは,前腕屈筋群への運動抵抗が十分で無かったことが考えられ,今後は電極貼付部位,刺激筋,刺激強度の検討が必要と考えられた.