抄録
【はじめに】
2004年に日本語版上肢障害評価表(以下DASH)が日本手の外科学会より作製された。これは障害部位に囚われず上肢全体のADLを評価するものであり、被験者自身による主観的な質問形式で行なわれる。また、得点(0~100点)が高い程障害が大きいと設定されている。近年、DASH使用について様々な報告があるが、多疾患を対象とした報告例は少ない。今回、当院においてDASHを使用し、全体の回答傾向を調査分析した結果、使用対象について若干の知見を得たので報告する。
【対象】
2006年5月~8月に当院にOT処方中であった手の外科対象者より無作為に抽出した159人の内、有効回答が得られた131(男59、女72)人を対象にした。年齢は19~82歳で平均56.9±16.1歳であった。
【方法】
全体の得点(以下DASHscore)、項目毎の得点の平均点・標準偏差を算出する。また、対象者を『性別』『利き手罹患の有無』『疾患別(拘縮、複合損傷・切断、RA、神経麻痺、絞扼障害、骨折、腱損傷、その他)』に分類し、相関を比較検討した。
【結果】
DASHscoreは1~77点平均33.3±19.5点であった。『性別』、『利き手罹患の有無』はT検定にて有意差はなかった。『疾患別』ではFisherの最小有意差法で得点の高い神経麻痺群と低い骨折群において有意差を認めた。また質問別では、比較的に粗大動作は得点が高く、片手で遂行可能な動作は得点が低かった。
【考察】
DASHの利用は治療者にとって客観的評価と共に対象者自身の訴えを把握することができ、治療プログラム立案の指標と成り得る。今回、質問別にみると「障害により能力に自信がなかったり使いづらいと思っている」の質問の得点が高く、患手を使用する事への恐怖と自信のなさが伺えた。また「筋力を必要とするか、衝撃のかかるレク活動」「重い物を運ぶ(5kg以上)」等粗大動作や筋力を要する質問は得点が高く、「鍵を回す」「交通機関の利用(移動の際)」等健手でも遂行可能な質問は得点が低い傾向であった。『利き手罹患の有無』で有意差はなく、これはDASHがどちらの手でも遂行しても良いとされており、健手での代償で遂行出来た為と思われる。『性別』でも有意差はなかった。対象者の75.6%(男48人女51人)が有職者で、男女ほぼ同数であることから、家事を行なう事が多い女性は家庭内役割における動作遂行の認識が高いと推測される。『障害別』では神経麻痺と骨折で有意差があったが、今回の設定の曖昧さが関与したと考えられ、DASHscoreのみの相関では比較検討が困難に思えた。今回の使用経験においてDASHは被験者の性別や利き手罹患に関係なく対象者に対しては使用できると思われた。しかし全体のDASHscoreでも得点の分散が大きく、特に疾患別の比較検討では詳細な設定の上使用することが望ましい。今後更にDASHを客観的評価と比較検討し、活用していきたい。