抄録
【はじめに】
今回、病棟内生活において重度な行動障害を有する症例に対して作業療法(以下OT)を実施した。OT開始後の日常生活の変化点を考察を含めて以下に報告する。
【症例紹介】
66歳男性。農業。無口でおとなしい性格。H16年12月父親が他界、翌年母親も他界し理解不能な行動や妻への粗暴行為、著しい記憶障害、失見当識が出現する。H18年5月30日前頭側頭型認知症(以下FTD)と診断される。脱抑制、注意の転導性亢進、感情鈍磨、幼稚な行動等行動障害が目立ち家族が対応困難となり入院となる。H19年2月1日より問題行動のコントロールを目的にOT開始となる。
【OT評価】
MMSE18点
FIM:OT開始時81点(食事、移乗、移動以外は部分介助・全介助。理解・表出ともに単語レベル)。現在83点(集団適応可能)。
【経過】
第1期(OT開始~3月上旬):10名程度のグループ(作業療法士(以下OTR)1名、看護師1名)での茶話会・軽体操・レクリエーション活動(以下レク)を導入。表情は乏しく、コミュニケーションは困難。常同的周遊が目立つ。誘導には応じるが、欲求が満たされると歩き回る、他患者の車椅子を押すなど反社会的行動が著明。レクではボール、風船へ過剰な反応を示し、被影響性が亢進している。
第2期(3月上旬~中旬):体操中は集中持続可能となる。病棟内の常同的周遊は続くが集団へ適応できる。風船やボールへ反応し、表情の変化がみられる。
第3期(3月中旬~現在):集団へ適応し場を楽しめ、他者を意識・配慮した行動が可能となる。他者の車椅子を押す等の行動は継続的するが、介入にて自制可能な範囲で被影響性の亢進による逸脱行為はなくなる。OT活動の準備を手伝う等役割の実践が可能となる。
【考察】
今回、病棟内生活において重度な行動障害を有する症例にOTを実施した。繁信らはFTD患者にその多様な前方症状を利用したアプローチが有用であると述べている。OTでは外部からの刺激を減らし、問題行動へすぐに対処可能な環境を設定した。活動中の立ち去り行動に対しては、被影響性の亢進を利用し再び作業や物品等への注意喚起にて作業を継続することが可能となった。また、興奮状態になった場合でも転導性の亢進の利用で興奮の原因から注意を別のものへ容易に転換することが可能であった。徐々に集中持続可能・集団への適応が可能となり日常生活内の行動障害も減少してきた。活動を継続により、OTRや他患者との繰り返しの関わりでなじみの関係が構築され、対象者にとって居心地の良い空間となった。また、表情の変化が豊かになり快の感情が経験されたとも考えられる。今後も本症例にとってのその人らしい生活環境・有用な援助方法を模索しながらOTの実践に取り組んでいきたいと考える。