九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
Online ISSN : 2423-8899
Print ISSN : 0915-2032
ISSN-L : 0915-2032
第29回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 044
会議情報

脊髄小脳変性症患者におけるリフティング課題の有用性の検討
*大木 誠竜永井 良治吉住 浩平松田 憲亮
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【はじめに】
 協調運動障害を有する患者の理学療法を通して体幹・下肢などの多関節の協調的運動が不十分なため、足関節戦略に依存し、早期のステップ反応が出現し、転倒されるような場面に遭遇した。そこで、体幹・股関節での姿勢制御を強いられるリフティング課題を取り入れ、その効果判定として重心動揺計上にて前方リーチ動作を行い、その際のリーチ距離と足圧中心の移動距離を測定した。また継ぎ足歩行中のステップ反応回数を方略の変化を捉える指標とし、介入の有用性について検討した。
【症例紹介】
 48歳男性。遺伝性脊髄小脳変性症、H14年発症。測定期間は投薬なし。躯幹協調機能ステージ1。踵膝試験左右共に陽性。著明な可動域制限、筋力低下なし。
【方法】
 計測は重心動揺計(アニマ製CS-10)上にて立位で両上肢90°挙上位にて棒を持った姿勢(以下開始姿勢)で前方へリーチした際の棒の移動距離(以下リーチ距離)と、その際の足圧中心(以下COP)の移動距離を測定した。30秒間のサンプリング中、リーチを5回行った。なお測定前には十分に練習を行なった。COPの移動距離は開始肢位での平均値からY軸成分の最大値の差を指標とした。継ぎ足歩行は5m中のステップ反応回数を計測した。
【介入】
 治療はA、10日間は四つ這いでの四肢を挙上する練習,座位での重心移動練習をそれぞれ左右10回ずつ行う体幹・股関節の協調性改善を目的とした練習と、B、その後10日間で足底に柔らかいマットを敷き、足関節戦略を抑制しリフティング課題を10回行なった。AB後の測定は共に10日目の治療後に行なった。
【結果】
 リーチ距離、COPの移動距離、ステップ回数の順に記載する。初期評価時29cm、9,3cm、23回以上、A施行後40cm、11,5cm、16回、B施行後46cm、9,3cm、7回となった。
【考察】
 矢状面の姿勢制御は、足・股関節戦略でのバランス回復が困難な場合、踏み出し戦略が用いられる。初期評価とA施行後では、体幹・股関節での姿勢制御能力が向上し、それに伴ってリーチ距離、COPともに向上したと考え、足関節と股関節の戦略の変化率は少なかったと考える。B施行後はリーチ距離が17cm増加した。Wernick-Robinsonらは比較的大きなリーチ距離は重心移動の小さい股関節戦略で達成できると報告している。立位で足関節戦略を抑制した介入で、体幹・股関節を優位に用いた姿勢制御に変化し、リーチ距離がしたと考えられる。また継ぎ足歩行は、支持面が狭くなり、より股関節戦略が必要となることは伺える。ステップ反応回数も、足関節戦略→踏み出し戦略であったものが、足関節戦略→股関節戦略→踏み出し戦略となり、減少したと考える。以上より、この足関節戦略を抑制した状態でのリフティング課題は有用であることが伺えた。

著者関連情報
© 2007 九州理学療法士・作業療法士合同学会
前の記事 次の記事
feedback
Top