九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
Online ISSN : 2423-8899
Print ISSN : 0915-2032
ISSN-L : 0915-2032
第29回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 034
会議情報

腋窩神経三角筋枝の解剖学的研究
~区画仮説に関連して~
*久保 喜照林田 真一郎加藤 克知
著者情報
キーワード: 腋窩神経, 三角筋, 区画仮説
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
【はじめに】
 中枢神経系には、単一骨格筋内の複数の区画において、それぞれ独立に運動単位の活動の強さを制御する能力がある。この現象は、筋の「機能分化」と呼ばれ、ひとつの筋がその区画内で運動単位の選択的な活動を通して、色々な力とベクトルを生み出すことを意味している。この現象の研究に基づいて、神経と筋の間の対応関係を説明するPartitioning Hypothesis(区画仮説)が提唱されている。本研究では、区画仮説を解剖学的側面から検討するために、三角筋とその支配神経である腋窩神経を対象として、神経の走行および筋内分布を詳細に調査した。
【方法】
 長崎大学歯学部解剖実習に供されたホルマリン固定解剖体12体の三角筋14側を用いた。なお、三角筋は、腕神経叢後神経束から分岐直後で切断した腋窩神経とともに一括して摘出した。腋窩神経の走行とその筋内分布についてスケッチと写真による観察を行った。また三角筋各区画の筋枝に含まれる神経線維を、オスミウム法による髄鞘染色を用いて検索した。
【結果】
 腋窩神経の走行については、腋窩神経の本幹は、まず後枝と前枝に分かれ、後枝は小円筋、三角筋後部への筋枝および上外側上腕皮神経に分かれる。前枝は三角筋内面のほぼ中央を前方に向かって横走し、その途中で中部への筋枝を分岐し、残りの枝は前部への枝を扇状に出している。三角筋の前・中・後部(区画)に入る筋枝は、複数の筋区画にまたがって分布することはなく、筋枝と筋区画の間に特定の対応関係が認められた。さらに各区画内の神経は、それぞれ筋頭部(起始側)と尾部方向(停止側)へ向かう独立した枝を出して分布しており、上下方向の新たな区画の存在が示唆された。
【考察】
 今回の研究では、腋窩神経の三角筋内分布を解剖学的に調査し、三角筋の前・中・後部各部分(区画)における神経と筋の対応関係を検討した。神経の筋内分布パターンの結果より、前部・中部・後部の前後方向の区画に加えて、各区画の筋頭部および尾部方向に新たな上下方向の区画が存在する可能性が示唆された。また、理学療法における治療的電気刺激や表面筋電図学的な分析において、神経筋区画に対応した最良のポイントを導き出すことの重要性が示唆された。今後、区画仮説で述べられている、「中枢における神経細胞の局在および末梢における神経線維の分布と、被支配筋の局部(区画)との一定した対応関係」が、さらに詳細に分かってくれば、体表面からの詳細な運動点の位置の決定が容易になる。今後、三角筋各区画における運動終板の数や分布、さらには他の形状をもつ筋においても同様の調査・検討が必要である。
著者関連情報
© 2007 九州理学療法士・作業療法士合同学会
前の記事 次の記事
feedback
Top