九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第29回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 042
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筋萎縮性側索硬化症の事例との関わり
~事例が提供された楽しみから、主体的に「今」を楽しむまでの変化を通して~
*松尾 佳美山田 麻和松尾 理恵中島 音衣麻園田 利恵武田 芳子平岩 幸代
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キーワード: ALS, 楽しみ, Activity
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抄録

【はじめに】
 今回、筋萎縮性側索硬化症(以下、ALS)と告知を受け2日後に人工呼吸器(以下、呼吸器)を装着した事例を担当した。呼吸器を装着し後悔する事例に対し「楽しく生きて欲しい」と考え関わったので、経過を踏まえて報告する。
【事例紹介】
 76歳女性、娘と二人暮らし。元々洋裁の仕事をしており手作業が好き。何事も最後までやり通す性格である。現病歴として平成14年から歩行障害出現。平成17年2月呼吸困難出現。同4月ALS疑いにて当院入院、5月初旬呼吸器装着。
【評価】
 上下肢体幹の粗大筋力3~4、lateral pinchは可能。厚生省の重症度分類2度で基本動作自立、伝い歩きが可能だが呼吸苦強く連続した動作は困難。呼吸器装着後、重症度5度となりADL・基本動作は全介助。HDS-R30点と認知面は問題なし。
【経過】
<ラポールの形成:1ヶ月目>
 呼吸器装着により不安が強く依存的な事例に対し、呼吸器の位置調整を覚え安心感を得てもらうと共に、身の回りの事を出来るだけ行うよう働きかけた。また「動けないのに生きる意味がない」と涙する事例の話を傾聴しつつ事例が好んでいたActivityを導入した。
<楽しみの提供~活動範囲の拡大:2~4ヶ月目>
 Activityに対し事例の受け入れが良かったため、楽しみとして提供することとした。事例がActivityを楽しむ中、出来ない動作に直面する場面もあり、OTは手伝うタイミングや事例の能力に合わせて提供出来ているかという思いを常に抱いていた。また、3ヶ月間事例の活動は自室内に限定されており、OTは色々な人や環境に触れてもらうため病院の庭など自室外へ連れ出していった。
<事例の意思に沿った関わり:5~7ヶ月目>
 今まで受け身だった事例が「外出したい」など意思を示すようになったため、OTからの提供は行わず事例の希望に沿って散歩やActivityを行った。事例は入院から7ヶ月目自宅退院となった。
<現在>
 1年4ヶ月を経て、事例は「Activityをするのがすごく楽しみで、作品を作れる内にたくさん作りたい」と言われている。現在、外出は行っていないが、一日に2時間意欲的にActivityを行いながら生活を送っている。
【考察】
 今回、OTの関わりが事例の能力に合っているか自信が持てず本当の楽しみが提供出来ているのか悩むことがあった。しかし、事例が提供された楽しみではなく、事例自身で楽しみを持とうとしている現在の姿を見て、Activityを行い楽しみを持つことが生活に定着していると感じることが出来た。また、事例が考えなどを意思表示するのは当然のことであり、今後事例の中に芽生えた思いを自由に表すことにより、事例の選択範囲がもっと拡がってもらえればと考え関わった。これらの関わりが、事例が自分を受け止めつつ主体的に「今」を楽しめていることへの一助となったのではないかと考えられた。

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© 2007 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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