九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第30回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 103
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リュックを背負った階段昇降における脊柱起立筋の筋活動
*吉本 龍司渡利 一生中原 雅美村上 茂雄漆川 沙弥香小松田 祐太西山 枝里疋田 真美甲斐 悟
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抄録

【はじめに】
 高齢者の転倒原因の1つに荷物を持っていたとの報告がある.また,転倒時の荷物の持ち方については,体の横に片手で下げる,体の前に両手で保持する,背負うの順に多く,転倒時の動作は主に歩行中で段差や障害物などの外因性のものであったと報告されている.荷物を持った歩行時の運動強度と換気機能調査において,手下げよりもリュックが適しているなどの報告はあるが,荷物を持った階段昇降における報告は少ない.そこで今回,リュックを背負った階段昇降における脊柱起立筋の筋活動を比較検討した.
【方法】
 対象は健常男性7名(平均年齢:20.4±2.2歳,平均BMI:20.0±1.3)とした.表面筋電図はノラクソン社製のマイオシステム1200とマイオビデオを使用した.筋電図の導出筋は左側の脊柱起立筋(L3レベル)とし,皮膚抵抗を10kΩ以下に処理した後,ブルーセンサーを電極中心距離間2cmで貼り付けた.階段昇降は,幅80cm,踏み面30cm,蹴上げ20cmの階段をメトロノームで1秒に1動作の速さで1足1段にて昇降させた.階段昇降動作は,無負荷(リュックなし)と2種類の重さ(被験者の体重の5%,10%重さ)のリュックを背負ったときの3条件で行った.
 筋電図分析は,安定した3回の階段昇降における左下肢接地から再び左下肢接地するまでをフットスイッチで確認し,各動作における積分筋電図を測定した.脊柱起立筋の最大随意収縮により得られた筋活動(MVC)を測定し,各動作での筋活動量を正規化して平均%MVCを求め比較した.統計処理は対応のある因子による一元配置分散分析および多重比較検定を行った.
【結果】
 3条件の階段昇降動作における脊柱起立筋の筋活動量の変化について,体重の5%と10%の重さのリュックを背負った昇段は,無負荷での昇段よりも有意に減少した(p<0.05,p<0.001).また,体重の10%のリュックを背負った昇段は,5%のリュックを背負った昇段よりも筋活動量が有意に減少した(p<0.05).体重の10%のリュックを背負った降段は,無負荷での降段よりも筋活動量が有意に減少した(p<0.01).また,体重の5%のリュックを背負った降段は,無負荷での降段よりも筋活動量が減少する傾向があった(p=0.064).
【考察】
 階段昇降動作は歩行動作と比べて,重心の鉛直方向への移動と下肢挙上を伴い,重心の極端な前方移動を抑制するために脊柱起立筋の筋活動が高まる.また,立位姿勢での骨盤位と体幹筋活動の関連性では,体幹の前方に荷物を保持するよりも背負う方が脊柱起立筋の筋活動が低いとの報告がある.今回の結果から,荷物を背負った階段昇降では,被験者の体重の5%および10%のリュックでは,重心の前方抑制に働く脊柱起立筋の筋活動を効率よく代償でき,無負荷よりも筋活動を減少させることができたものと推察された.

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© 2008 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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