抄録
視覚的に示される温かさと,実験参加者の反応手に対する物理的な温度との間の関係性について,刺激反応適合性パラダイムを用いて検討した.実験1では,参加者は片方の手を温かい湯に,もう片方の手を冷たい水に浸したうえで,火や熱等の温かさを示す写真刺激(温刺激)もしくは雪や氷等の冷たさを示す写真刺激(冷刺激)のいずれかへの反応課題を行った.課題は,温刺激には温かい手で,冷刺激には冷たい手で反応する(適合条件),もしくは,温刺激には冷たい手で,冷刺激には温かい手で反応する(不適合条件)ことであった.その結果,温刺激と冷刺激の両方で,不適合条件と比べて適合条件にて反応時間が短くなった.続いて実験2で,心理的な温冷を示唆する喜びもしくは悲しみ表情の顔刺激に対しても同様の傾向が認められた.以上の結果は,視覚入力と運動出力システムとの間で,温冷に関する概念的レベルでの情報が共有されていることを示唆する.