九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第30回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 106
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脳血管障害患者における歩行開始時の分析
再発性ラクナ梗塞により右片麻痺を呈した症例を通して
*浜岡 秀明増田 良平坂口 重樹
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抄録

【はじめに】
今回、麻痺側下肢の躓きが特に歩行開始時に多くみられ、経過を追う中で躓きが消失し自立レベルに至った症例を担当した。そこで、躓きの消失に関与した運動力学的因子を分析する事を目的とし、歩行開始時の麻痺側下肢の立脚中期(以下M.S)から遊脚初期(以下P.S)に着目し、歩行自立度での比較を1症例を通して行った。
【対象および方法】
対象は、再発性ラクナ梗塞により右片麻痺を呈した68歳男性。下肢のBRSはVレベル、歩行で問題となる関節可動域制限は認めない。発症後70日と100日に三次元動作解析装置VICON MX13(バイコン社製、カメラ14台、計測周波数100Hz)と床反力計6枚を用いて独歩を計測した。開始位置は床反力計に乗っている状態とし、麻痺側下肢から振り出しを行った。得られたデーターから麻痺側M.Sから踵離地をI相、麻痺側踵離地からP.SをII相とした。算出パラメーターは身体重心(以下COG)、足圧中心軌跡(以下COP)、合成鉛直方向床反力(以下Fz)、進行方向床反力(以下Fy)、下肢の関節角度(以下A)、モーメント(以下M)、パワー(以下P)とした。
【結果】
歩行能力は麻痺側下肢の躓き消失により屋内歩行がT字杖を使用して見守りから自立レベルへ至った。
M.SからP.Sに関して、自立時では見守り時よりCOG、COPの左右の振幅が短縮し、COPにおいては単位時間あたりの移動距離が延長した。Fzは自立時に増加した。
I相に関して、Fyは両時点で麻痺側下肢が前方成分、非麻痺側下肢が後方成分となり、自立時では増加した。Aは自立時で麻痺側骨盤後方回旋が減少、股関節伸展が増大した。Mは自立時で麻痺側股関節屈曲M、麻痺側足関節底屈Mが増大、非麻痺側股関節伸展Mが減少した。Pは両時点で麻痺側の股関節、足関節が遠心性活動、非麻痺側の股関節が求心性活動を示していた。
II相に関して、Aは自立時に麻痺側肩関節と骨盤の挙上が減少した。Mは自立時に麻痺側股関節屈曲M、麻痺側足関節底屈Mが増大した。Pは両時点で麻痺側の股関節、足関節が求心性活動を示した。
【考察】
見守り時ではI層で骨盤の後方回旋がみられ、かつ股関節の伸展角度が低下していた。そのため、股関節屈曲M、足関節底屈Mを十分に活動させて前方への推進ができないと考え、II層へ移行する際、骨盤の引き上げによりCOGを側方へ移動しながら行っていると考えた。
一方、自立時では、骨盤の後方回旋の軽減がみられたことで股関節伸展角度が増大した。そのため、股関節屈曲M、足関節底屈Mの増大が生じ、十分な遠心性の活動が可能となったことでより非麻痺側下肢への重心移動が容易になったと考えられる。そのため遊脚期に移行する際、十分な股関節屈曲Mの求心性活動により、骨盤の引き上げのパターンが軽減し、前方への推進がスムーズに行えるようになったと考えた。

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© 2008 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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