抄録
【はじめに】
今回、左被殻出血を呈し歩行訓練開始後に膝関節内側~鷲足付着部に痛みを生じ歩行困難な症例を担当する機会を得た。既往に両変形性膝関節症も合併しており、荷重下での訓練が困難であった。そこで歩行と寝返りでの運動の共通点に着目し寝返り動作にアプローチした結果、歩容に変化がみられ荷重時痛の軽減が得られたので以下に報告する。
【症例紹介】
73歳女性 H19年10月25日左被殻出血発症。10月30日より理学療法開始。開始時Brunnstrom recovery stage(以下Br.stage)下肢III。11月30日、Br.stage下肢V、歩行訓練開始。
【理学療法評価 H20 1.9】
歩行立脚期、特に立脚中期以降に右膝関節内側~鷲足付着部に痛み。visual analogue scale(以下VAS) 8/10。立位重心右側方移動時に同部位に痛み(+)。さらに骨盤右回旋強要で増強。右長内転筋・薄筋・縫工筋、ハムストリングスの筋緊張亢進。右腹斜筋低緊張。
【動作分析及び臨床推論】
右遊脚期で右下部体幹と骨盤の連結が不十分で骨盤は左回旋する事なく右回旋位のままであった。骨盤右回旋位で右立脚初期を向かえるため骨盤から下肢への運動連鎖により、右下肢では股関節内転・内旋、膝関節内反、足関節底屈、踵骨回外のアライメントを呈していた。このアライメントは右立脚期での推進力を右股関節伸展ではなく骨盤右回旋で代償するため右立脚中期以降、特に増強されていた。よって、右脛骨は外側傾斜・外旋が強要され、右膝関節内側への過度の荷重ストレスを生じ、さらにそれを鷲足筋で遠心性に制動するため右鷲足部へのストレスが生じたと考えた。左側への寝返りは、右股関節を屈曲・内転しベッドから挙上した際、右側下部体幹と骨盤の連結が不十分で、骨盤が右後方に残ったまま(右回旋位)であった。以上の分析結果より、左側への寝返り時の右下部体幹と骨盤の連結を図り、歩行右遊脚期の骨盤左回旋を促し右立脚初期での骨盤から下肢への運動連鎖に変化を与える事で右膝関節への荷重ストレス、鷲足筋へのストレスを軽減できると考えた。
【理学療法アプローチ】
1,体幹機能訓練 2,股関節機能訓練 3,寝返り動作訓練(右遊脚期を想定して)
【結果 H20 2.15】
Br.stage下肢V。左側への寝返り時の右下部体幹と骨盤の連結が促され、歩行時も右遊脚期で骨盤左回旋が生じた。その結果、骨盤から下肢への運動連鎖に変化がみられ右立脚期での下肢アライメントにも変化がみられた。歩行時の痛みはVAS 4/10と改善された。
【まとめ】
高齢の脳卒中患者の場合、既往に変形性膝関節症などを合併している例も多く、積極的な歩行訓練が困難な場合も多い。そのような場合、寝返りと歩行での共通する問題点を分析し、歩行訓練の一手段として寝返り動作にアプローチする事も有効であると考える。