抄録
【はじめに】
動揺肩が基盤と考えられる病態は多岐にわたり、日常臨床で遭遇する機会が多い。特に投球傷害肩のうち上記の成因で起ったと考えられる病態に対し、保存的加療により寛解にいたる例が多いとの報告が見られる。保存的加療のうち、腱板訓練がその一端であると考えられ実施されているが、laxityが強い場合、効果を得るために時間を要する。血流制限された部分よりも末梢に筋力増大効果が期待されるとの報告がある一方で、体幹でも効果が得られたとの報告もあり、血流制限下でのトレーニング(以下加圧)でのメカニクスストレスのみではなく、代謝系要素の関与をうかがわせる。今回加圧併用による腱板機能訓練に有効な効果が得られるのではないかと考え検討を行った。
【対象ならびに方法】
肩関節痛を主訴として来院したもののうち、Drの診断でSulcus sign陽性・load and shift test陽性(すなわちlaxity陽性)でこのlaxityが病態の成因と考えられると診断され、加圧に本人の同意が得られた20例20肩を対象とした。無作為に加圧併用群、否併用群とにわけ、トレーニングはCuff-exを中心に行い、期間は3回/週で4週間行った。測定は等運動性筋力測定器(以下BIODEX)を用い椅子座位の状態で内旋、外旋の等速性運動での値を求めた。運動様式は肩関節屈曲45度・水平内転30度にて内旋・外旋を角速度60・180・270(deg/sec)で各5セット行い、ピークトルク値を体重で除した相対値を用い加圧併用群、否併用群の比を求めた。統計処理にはWilcoxon符号順位和検定を用い危険率5%にて有意差を求めた。
【結果】
加圧併用群での角速度60°外旋/角速度60・180・270°内・外旋で有意差は認められた。角速度60°内旋のみ有意差が認められなかった。否併用群では全て有意差は認められなかった。
【考察】
肩関節の動揺性は回旋腱板筋群と肩甲骨周囲筋群の機能的なバランス異常により生じる。投球動作等、高速で高いパフォーマンスを発揮させるためには、運動の支点となる肩関節を安定させることが重要であるがlaxityが強い場合、効果を得るために時間を要する。そこで加圧が腱板機能訓練にどのような影響を与えるかを検討した。筋肥大は通常1RMの80%のトレーニングにて起こるのに対し、宝田らは加圧の場合、1RMの40%程の負荷でも同様の効果が得られ、血中乳酸濃度が高位を呈し筋内環境が劣悪な状態になり、局所性貧血と再灌流というストレスが運動中の筋活動レベルを増加させるためと考えられる。角速度60°外旋、角速度180・270°内・外旋では訓練前に比べ骨頭の安定性・運動性が高まり肩関節を支点に運動がスムーズに行えたのではないかと考えた。角速度60°内旋に関しては、outer muscleのトレーニングを行っていない事や内旋筋は外旋筋に比べ深層筋が少ない事も要因として考えた。今後はouter muscleトレーニングも加え継続し、今後の課題としていきたい。