抄録
【はじめに】
我々は臨床において,橈骨遠位端骨折後に慢性的な肩の痛みを訴える症例を多く経験する.そこで今回,それらのレントゲン所見(以下,X線)機能評価に着目し,比較検討した結果,若干の知見を得たので以下に報告する.
【対象】
過去3年間当院にて加療を行った橈骨遠位端骨折101例,右49手,左54手の計103手を対象とした.平均年齢57.62±21.18歳,平均観察期間120.75±85.25日.保存例は70例,pinning17例,plate15例,創外固定1例.なお,肩関節痛みあり群(以下,A群)23例,痛みなし群(以下,N群)78例であった.
【方法】
103手に対し斉藤の機能評価を実施し,
1.A群とN群の斉藤の機能評価の比較検討.
2.A群とN群において,i)関節可動域,ii)X線所見(volar tilt,radial inclination,ulnar variance,shortening),iii)自覚的症状の比較検討.
3.A群における自覚的症状,shorteningの相関.
これらについて,1と2は独立した2群の差の検討を用い,3はスピアマン順位相関係数を用い危険率5%未満を有意水準とした.
【結果】
1.A群N群において斉藤の点数に有意差が認められた.
2.A群N群において,i)関節可動域では有意差は認めなかった.ii)shorteningのみ有意差が認めた.iii)自覚的症状において有意差を認めた.
3.A群のshorteningと自覚的症状において負の相関を認めた.
【考察】
手の外傷とその後の肩の痛みの関連性について,十分に検討された報告は少なくない.今回の研究において統計学的結果から,肩関節痛みあり群(A群)について斉藤の評価点数が劣ることや shorteningの減少により手関節の痛みが出現することが示唆された.これらの事から手の外傷による肩関節への作用を考慮すると,1)手関節の痛みによる肩関節の代償動作(過用,誤用),2)橈骨遠位のalignment変化による近位方向に対する力伝達の比率の変化,3)固定期における前腕筋群の影響(腕橈骨筋など),4)転倒時,手関節をついた際の介達外力によるSLAP lesionの発症と手関節の痛みとの関連などが考えられ,それぞれに仮説を立て考察した.今後は,この研究を元に手の外傷後の肩の痛みについて詳細な評価や検証を進めるとともに,早期からの運動療法を検討し臨床に役立てていきたいと考える.
【まとめ】
1.A群とN群において斉藤の機能評価(関節可動域,X線所見,自覚的症状)の比較検討を行った.
2.X線所見でのshorteningの減少は,肩関節への痛みを伴いやすいことが示唆された.
3.今回,肩関節の詳細な評価は行っていない為,今後の課題として,手関節のみならず上肢全体の評価を行い,臨床に反映する必要がある.