抄録
【目的】
近年、糖尿病により腎障害をきたし、人工透析を導入している切断患者をみる機会がある。前回、人工透析中の四肢切断患者は義足使用下にADLは向上するものの、義足を装着しての歩行が転倒のリスクが高いこと、疲労度が高いこと、透析後の電解質変化により倦怠感が強く、運動量が低下することにより、日常生活において義足を使用しない傾向にあるにあることを報告した。
今回、実際にADLにおける義足歩行と車椅子駆動の疲労度を調査したのでここに報告する。
【対象・方法】
対象は、当院で2004年4月1日から2007年6月1日の間に人工透析を導入した127例、うち、四肢のいずれかを切断し、現在生存される2例、1例は認知の低下、視力障害にて除外し、1例を調査した。
方法は、修正Rorgスケールを使用し、上肢エルゴメーターでややきつい(7)を指標とし、2分間実施。その直後の血圧(水銀血圧計)、心拍数(心電計)を記録した。また、車椅子駆動、義足歩行(両ロフストランド杖歩行)を6分間行い、直後の血圧、心拍数を記録し、6分間歩行の正常値(持久力指標)と運動強度を比較した。比較にはDouble Product(DP:収縮期血圧×心拍数)を使用した。
なお、症例においては、事前に自律神経障害の調査として、高さの違う(運動強度の違う)Push upを繰り返し行い、直後の血圧、心拍数の上昇を負荷の増加と同様に認めたため、自律神経障害はないと判断している。
調査は本人の承諾を得、また医師の監視の下実施している。
【結果】
上肢エルゴメーター直後の血圧178/54mmHg、脈拍93Beats、DP16554、車椅子駆動直後の血圧164/60mmHg、脈拍87Beats、DP14268、義足歩行直後の血圧202/64mmHg、脈拍107Beats、DP21614だった。それぞれのDPを比較すると、車椅子駆動、上肢エルゴメーター、義足歩行の順に高い値を示した。
【考察】
以前の調査より日常生活において、義足の使用頻度が少ないという結果が出ている。理由として義足歩行の疲労度が高いことが挙げられた。疲労度は車椅子駆動、上肢エルゴメーター、義足歩行の順にDPが高い値を示し、車椅子駆動は楽で、義足歩行は負荷の強い動作ということが言えた。そのため、日常生活での使用頻度が低下すると考える。
【まとめ】
今回の調査により、義足歩行が疲労度の高い動作ということが分かった。そのため、義足歩行は日常生活で使用せず車椅子での移動となり、廃用症候群を助長する因子となっている。廃用症候群を防ぐために、疲労を最小限に抑えられる歩行動作の獲得と持久力の強化を積極的に行なっていく必要があると考える。