抄録
【はじめに】
野球肘障害では、幼少期からの投球動作の繰り返しによる慢性的な投球障害を抱えていることも多い。特に投手においては、それまでの経験と培ってきたフォームの特性上での利点・問題点を兼ね備えている。今回、4年前から毎年夏期に投球時痛が出現する投手を担当する機会を得た。その症例に対して行った所見と治療について述べ、機能・フォーム上からくる問題について考察したためにここに報告する。
【症例紹介】
17歳、男性。硬式野球部、右投げオーバースローの投手(エース)。診断名は右野球肘(右上腕三頭筋付着部炎)。X線所見では、右内側上顆・肘頭に不正を認める。
【現病歴】
投球中(14歳)に、右肘関節内側痛出現。安静にて疼痛軽減するも、毎年夏期になると疼痛増強していた。今年は、冬季練習終了した2月初旬より投球開始、徐々に疼痛増強し当院受診となる。
【初期評価】
疼痛:右肘関節伸展にて肘関節後方痛、右肘関節屈曲時に肘関節内側痛を認めた。圧痛は右肘内側側副靭帯に認められた。フォーム中にはLate cockingからAccelerationにて右肘内側痛(キャッチボール程度でも)とFollow throughにて右肘関節後方痛(80%以上でのピッチングにて出現)。関節可動域(右/左):肘屈曲140°/145°伸展-5°/5°回外制限(右>左)肩外旋(2nd)95°/110°内旋(3rd)-15°/15°。肩関節柔軟性:著名に左右差あり。外反ストレステスト:0°・30°では疼痛出現しないが、2nd外旋では内側痛出現。筋機能検査:僧帽筋中部・下部の低下、腱板機能低下を認めた。投球フォームは、Early cockingでの肩関節の水平伸展が出現、Late cockingでは体幹と頚部は非投球の側屈が出現、Accelerationでは体幹の非投球側への過剰な回旋が出現、Follow throughでは手関節は中間位となっている事が確認された。
【理学療法プログラム】
(1)肩関節可動域改善(2)肘関節可動域改善(3)腱板・肩甲胸郭関節筋機能改善(4)フォームの再考
【経過】
春の大会中であり、試合では100球前後の投球を実施。練習では100球と30球の投げ込みを毎日交互に行っていた。
【結果】
投球時痛としてはAccelerationでの投球時痛は改善された。しかし、全力で投球した際のカーブ・スライダーではFollow through時に後方痛が残存した。
【考察】
初期に認めた肩関節・肩甲帯の柔軟性・筋力は早期に改善された。そのためLate cockingからAccelerationにかけての外反ストレスが減少し、疼痛が軽減したと考えられる。しかし、フォーム上に変化が見られても、後方時痛は改善されなかった。これは、ストレートでは手関節背屈・手指屈曲となり、屈筋群の緊張が強くReleaseまで行えることから、肘関節の過伸展に抵抗していると考察する。
【終わりに】
今回、強く出現していた内側痛に着目しアプローチを行った。肩甲帯・肩関節がフォームに及ぼす影響を再認識できた。今後の課題としては、球種に関与しない肘関節の使い方として、肘の単関節筋と近位から肘関節に付着する筋群に着目しアプローチすることが必要と考えられる。