抄録
【はじめに】
従来より前十字靭帯(以下ACL)損傷における観血的治療は多くの治療法が考案・施行されている。その中でも一次修復術は他の治療法に比べ適応が少なく、術後リハビリテーションの方法や予後は報告者によって様々である。今回左膝ACL損傷後、一次修復術を施行しスポーツ復帰を果たした症例について考察したためここに報告する。
【症例紹介】
18歳、女性、柔道部(左組み手)、身長151cm、体重74kg、診断名は左膝ACL損傷、左膝外側半月板(以下LM)損傷である。
【現病歴】
試合中、自ら技をかけた際に相手に膝の上に乗られて受傷。当院受診時に靭帯再建術を勧められるが、監督や両親の意向により他院にてACL一次修復術を行なう。一時修復術後はリハビリを目的に当院を再受診しリハビリ再開となる。この時LMは保存的に治療する。
【術後評価】
腫張、熱感が認められた。関節可動域(以下ROM)テストでは左膝伸展-25°、屈曲75°であった。Lachman testは陽性であり、前方引き出しテストにおいても前方への不安定感が認められたものの、最終域で靭帯性のend feelが感じられた。MMTは屈曲、伸展ともに4レベルであった。
【理学療法プログラム】
(1)左膝ROM訓練(2) 装具・テーピング下にて左膝周囲筋訓練(3) 患部外訓練
【経過】
靭帯の連続性はあるものの、手術後より著名な前方不安定性の改善は認められず、期間がたっても不安定性は改善されなかった。痛みやROMや筋力の回復が早く、トレーニング中やトレーニング後の痛みがなかったため、治療やトレーニングが円滑に進んだ。
【結果】
術後5ヶ月で疼痛、ROM、筋力に問題が無くなりスポーツ復帰することができた。しかし期間が経過しても不安定性に著名な改善は認められなかった。
復帰後約半年で同側MMを損傷し当院を受診した。その際のMRI所見ではACLの連続性が確認できた。その後損傷したMM切除術を行った。術中の所見としてACLは細く緊張のないバンドのみで機能的な靱帯ではなかった。
【考察】
術後の理学療法において疼痛、ROM、筋力の獲得が早期に得られた要因として手術の侵襲が軽度であったことや、靱帯を縫合することで生理的な靱帯の走行が保たれたことが考えられる。しかし機能的な靭帯は獲得することができず、細く緊張の無いバンドのみであった。術後5ヶ月より徐々にスポーツ復帰したが、復帰後も不安定感は消失せず、術後約1年でMMを損傷した。これはACL機能不全による損傷である可能性が高いと考える。
【終わりに】
今回、ACL損傷に対して一時修復術を行うことで、早期スポーツ復帰が可能であった。しかし結果的にMM損傷を続発した。ACL損傷に対する一時修復術は様々な適応を考慮した上で、明確な復帰判定基準を定める必要があると考える。