抄録
【はじめに】
近年、コアコンディショニングの道具としてストレッチポール(以下SP)が広く取り扱われている。そこで今回はSPをリハビリの1つとして捉え、それに加えて股関節外転位下肢伸展挙上(以下外転位SLR)を用いることで歩行改善を目的に評価からアプローチを行い良好な成績が得られたのでここに報告する。
【事例紹介】
70代、女性。診断名:腰椎分離辷症、腰部脊柱管狭窄症(L3-4椎弓切除+固定術)、現病歴:H19年1月頃から右>左の腰・殿部痛、下肢の痺れと間欠性跛行出現。8月頃他院受診し手術適応となる。
【評価】
1.外転位SLR(屈曲45°外転30°):左側は体幹の不安定感もなく、右骨盤の挙上左回旋も軽度。右側では左骨盤の挙上左回旋が見られ、体幹の不安定感あり。
2.SP上SLR:左側は体幹をSP上で安定させスムーズに挙上を行うが、右側は挙上初期より股関節内転し、右側に骨盤より転倒。
3.歩行[右遊脚終期(以下TSw)⇒右初期接地(以下IC)]:左側に比べ右側では振り出し時の骨盤左回旋が少なく、歩幅も狭い。また、重心も後方に残存。
【アプローチ】
1.体幹回旋訓練
2.SP上体幹回旋訓練
3.SP上SLR
【結果】
1.SP上右SLR:若干股関節内転は残存するが、胸郭~骨盤を安定させ下肢挙上可能。
2.歩行[右(TSw)⇒(IC)]:振り出し時の骨盤回旋、歩幅ともに訓練前より大きくなり、体幹も安定し重心前方移動可能。
【考察】
本症例は、術後に大きな機能低下がないにもかかわらず歩行時、右TSw⇒ICにかけて不安定感が見られた症例である。この周期での体幹筋の役割として、鈴木らは『上肢の後方への振り出しに伴い、胸郭は骨盤の回旋方向とは反対側に回旋する。この時、同側の外腹斜筋は胸郭の回旋に対するブレーキング作用として働く。』と報告している。今回は歩行時のこの働きを評価する方法として、股関節外転位SLRとSP上SLRを考えた。股関節外転位SLRでは、まず股関節外転挙上により挙上側下肢の位置エネルギーが上昇し、それに伴い下肢挙上側方向へ骨盤回旋運動が生じる。その回旋運動を抑制するために挙上側内腹斜筋・非挙上側外腹斜筋は等尺性収縮により拮抗する。それに対して挙上側外腹斜筋・非挙上側内腹斜筋は床面に接している非挙上側下肢・骨盤・体幹を介して逆方向に運動を制御することで胸郭~骨盤の安定化を図っているのではないかと考えられる。この時の体幹の働きが歩行におけるTSw~IC時の体幹の働きと類似しているのではないかと考えた。さらにSP上でSLRを行い、支持基底面を脊柱のみに制限することで、床面でのSLR以上に腹斜筋群制御による体幹安定化が必要となり、より実際の歩行に近づいた評価からアプローチへ繋がるのではないかと考え、その結果、今回良好な成績が得られた。
今後の課題としては症例の予後やSP使用による術側脊椎への負担等の課題があると考えている。