九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第30回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 90
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やっぱ、箸で食べましょ
~維持期に新たな福祉用具を導入~
*小西 久美子
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キーワード: 福祉用具, 維持期, 専門性
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抄録

【はじめに】
今回、治療経験があり生活機能が安定していた維持期の方へ新たに福祉用具を導入し、ADLに質的な変化をもたらすことができた。福祉用具に対する専門性について考察を加えて報告する。
【機器について】
把持しやすいように配慮されたク゛リッフ゜が2本の箸と一体になったク゛リッフ゜付き箸(箸蔵くんストレート左手用、ウィント゛~風~社製。以下、介助箸とする)を使用した。
【症例紹介】
右片麻痺の70歳半ば女性。200X年(70歳)、脳出血発症。200X+4年、介護療養型病棟を経て当園入所。フ゛ローカ失語だが、明るく前向きな人柄。要介護 4。障害老人の日常生活自立度 B1。痴呆老人の日常生活自立度 I。Barthel Index 55点。食事は、肩関節外転・前腕回内位でスフ゜ーン把持し、すくい上げや口へ運ぶ時に食物を落としエフ゜ロン使用。Brunnstrom stage 下肢-III、上肢-II、指-II。立位は、右下肢に屈曲ハ゜ターン優位の共同運動出現し左片足立ちとなる。右上肢は、廃用手。左手指は、指尖つまみやシャツの第一ホ゛タンのかけはずし可能。
【導入までの経過】
両手の巧緻性の高さを期待できる洋裁や弁当屋の職歴を持つ。前施設でハ゜チンコ玉を並べて文字作り施行。入所時評価と経験知より介助箸使用を提案する。試用で活動遂行はぎこちないが、副食はほぼ食べこぼさなかった。米飯は箸先を閉じてしまうため取りこぼし、かきこむように食べた。使用感は良く、3日間の試用期間を経て日常使用になった。
【方法】
毎食、スフ゜ーンと介助箸を併用。経過観察し、3ヶ月後に再評価した。
【結果】
箸先を数ミリ開けて米飯の塊を箸にのせることが可能になった。食物に対する箸の構えが改善し、介助箸使用の効率性が向上した。エフ゜ロンなく、介助箸でほぼ全量食べる。主観的評価は、遂行度9/10、満足度9/10だった。左手指で一般の箸を構えることが可能なのを確認でき、箸操作獲得に向けた治療案を受け入れた。
【考察】
福祉用具が街中で簡単に安価に誰でも手にすることができるようになり、福祉用具に対する専門性が問われると思う。今回、作業療法の立場から(1)経験知を踏まえて食事動作に改善の可能性があるかもしれないと漠然としたニース゛を発見し、(2)情報を収集・整理して社会歴や治療歴からも左手指の潜在能力を推察し、(3)介助箸の食事という新しい活動の機会を作り、その活動遂行を支援して実際的に福祉用具を導入したと思う。また、環境因子のひとつである福祉用具が、生活機能に及ぼす影響力を再認識した。福祉用具が生活機能に対して促通因子であるよう導入する者の技量に、専門性が問われると思う。

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© 2008 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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