抄録
【はじめに】
近年、若い年齢で脳卒中を発症し、その後のADLに支障をきたす例も少なくない。今回、脳梗塞後左片麻痺により、家事動作における茶碗洗い動作が困難となった症例に対し介入した結果に若干の考察を加え報告する。
【症例紹介】
60代女性、H18.11脳梗塞発症(右頭頂葉・内包)、左片麻痺。現在週3回当院外来リハ利用。Br.stage:V-IV-VI。感覚:手掌面表在・深部中等度鈍麻、BI:95点(減点:入浴)、STEF:Rt96・Lt15、高次脳機能障害:(-)
【茶碗洗い動作場面の特徴】
開始時の立位姿勢は、頚部・体幹が屈曲位にて過剰に固定しており、重心は右側へ偏位。麻痺側上肢は屈曲パターンをとり肘・手関節・手指ともに軽度屈曲。肩甲帯挙上後退位。両側上肢活動時、麻痺側上肢は連合反応が出現し、茶碗の形状に対して、適切な手の形状付けが行えない。
【経過】
把持動作時の立位バランス不十分で、上肢に連合反応が出現していた。また把持動作中は徐々に屈筋痙性が亢進し、安定した茶碗把持の持続が困難な状態であった。
まず立位での重心移動を行う中で体幹筋の同時収縮性を高め抗重力伸展活動を促した。更に体幹の支持性が向上し、立位が安定した時点で、上肢の連合反応を減弱しつつ、更にリーチ方向への重心移動を伴う多方向へのリーチを促通し、そのなかで流しでの茶碗への把持につなげた。また、タオルを用いて手掌面への体性感覚入力を行った後、茶碗を用いた実際場面での把持の調節・学習を繰り返し行った。
また視覚情報を確認しながら、動作を定型的に行うことで、患者自身の茶碗把持に対する内的動機付けを図った。
開始3ヶ月後茶碗の把持及び適切な手の形状付け及び自己修正が可能となり、安定した茶碗洗い動作を獲得した。
【考察及びまとめ】
今回、立位での両上肢活動に着目し、茶碗洗い動作に対する介入を行った。
動作を行うための適切な身体環境を整えることで、立位という不安定な環境下での両手動作の獲得を目指した。
特に高次脳機能、視蓋脊髄路に大きな問題がなく、動作に対する理解は良好であったため、視覚からのfeedbackを促し頭頂連合野による動作理解遂行というSensory motor systemによる脳の賦活も期待した。
立位バランスの改善から介入し、同時に連合反応の抑制、適切な上肢操作の学習を繰り返し、患者自身の内的動機付けを十分に定着することが出来たため、最終的に動作獲得につながったと考える。