抄録
【はじめに】
 今回、左上腕骨近位端骨折を受傷した症例を担当し、保存療法により関節可動域改善、ADLの向上を目指した。治療を進めていく中で疼痛による運動療法への拒否、モチベーションの低下がみられ治療に難渋し、そこで趣味のピアノ演奏を用いたアプローチを行い良好な経過が得られているのでここに報告する。
【症例紹介】
 70代後半、女性。H20.12、買い物の最中に転倒し、左肩の痛みを訴え当院受診。左上腕骨近位端骨折の診断にて保存的リハビリ目的のため入院の運びとなる。受傷日より三角巾+バストバンド固定、リハ開始となる。
【評価】
 疼痛は安静時痛、夜間時痛ともに骨折部周囲にみられ、圧痛は棘下筋、小円筋、肩甲下筋にみられる。肩関節可動域は他動屈曲90°、自動屈曲45°でありどちらも疼痛出現、自動屈曲は肩甲骨代償著明。三角巾、バストバンド除去後、患側の肢位は肘関節軽度屈曲位、肩関節内旋位をとる。
【プログラム】
 入院初日より肘、手、手指の他動および自動運動、回旋筋腱板のリラクゼーション開始。物理療法としてアプローチ前に肩甲骨周囲へのホットパック。終了後には腫脹部位に対しアイシング施行。Dr指示により4週目より骨折部を把持しながら疼痛増強しない範囲内での愛護的なROM‐ex開始。リハ開始7週目で外仮骨形成確認し、内・外旋以外の運動全可動域行うが疼痛強くリハ拒否。8週目よりROM改善、リハに対する意欲の向上を目的とし症例の趣味であるピアノを用いたリハ開始。
【経過および考察】
 入院初日より肘、手、手指の関節拘縮予のためROM-exと肩関節周囲筋のリラクゼーションを開始した。症例は認知症があることから病室に自主訓練メニューを貼り付け、またセラピストが病棟に直接行き、自主訓練を促す事で最低限の肘、手、指の自主訓練を行う事ができ拘縮は予防することができた。施設への退院後、外来にてリハを行うが疼痛強く、リハに対する拒否がみられ、ADL内での患側不使用、肩関節、肘関節の不動肢位が続き肘関節にも可動域制限を呈している。一向に軽減しない疼痛により治療に難渋し、ピアノ演奏によるアプローチを開始した。その結果、現在では自動屈曲65°と若干ながら改善がみられ、更衣動作が自立となっている。今後、ピアノによるアプローチにて症例の可動域の状況を考慮し、椅子の高さ、鍵盤との距離をセッティングするなど段階付けをすることで更なる可動域が得られ、また並行してADL訓練を行う事でADL向上が見込めると考える。
【まとめ】
 現在,更衣動作は自立したものの依然として入浴動作(洗髪、洗体)は困難であるが、若干の可動域改善、疼痛軽減がみられている。今後も同アプローチを行い経過も含め報告したい。