九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第31回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 111
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肩甲下筋腱単独断裂に対する術後理学療法の経験
*辛嶋 良介菅川 祥枝杉木 知武佐々木 誠人
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抄録
【はじめに】
 腱板断裂において肩甲下筋単独腱断裂は稀な病態である。近年、肩甲下筋腱断裂も鏡視下に修復されるようになったが、後治療法に対する報告は我々が調査した限りでは散見される程度であった。以下に肩甲下筋腱断裂にて鏡視下腱板修復術後を施行した症例の経過を報告した。
【症例提示】
 年齢:56歳、性別:男性、職業:建築業、診断名:左肩甲下筋腱断裂、現病歴:平成20年2月26日自動車事故にて座席に左肩を強打し受傷、同年4月23日手術目的にて当院入院となった。術前理学所見:常時疼痛があり、特に腱板疎部と小結節部の圧痛が著明であった。Lift off test、Belly press test、Empty can testは陽性、JOA Scoreは100点中69点であった。手術所見:上腕二頭筋腱上方で肩甲下筋腱の断裂を認め、関節前方が大きく開口していた。小結節付着部にAnchor 2本で修復し、烏口肩峰靱帯を切離した。
【経過と結果】
 術後3週間肩外転装具にて外転内旋位固定を行った。術後翌日より理学療法を開始、他動肩関節可動域訓練を外旋0度の範囲内で実施した。術直後より疼痛コントロール不良にて積極的な治療展開が困難、特に夜間痛のコントロールに難渋した。肩関節下垂と外旋訓練は術後3週後より開始し、術後4週で固定除去した。術後3ヶ月より抵抗運動を開始、日常生活動作で軽作業から右上肢の使用が許可となり、術後5ヶ月より復職となった。術後6ヶ月での最終評価時は、作業時痛が残存、Lift off test、Belly press test、Empty can testは陰性となり、JOA Scoreは100点中82点であった。
【考察】
 当院で2008年1月から2009年1月に鏡視下腱板修復術を施行した49肩中、棘上筋断裂と合併する肩甲下筋腱断裂は5肩 、肩甲下筋腱単独断裂は1肩であった。腱板前方構成体の損傷例では、術後疼痛コントロールに難渋する症例を経験する。本症例では、復職が可能であったが、術後6ヶ月では作業時痛が残存した事で、JOA において十分な結果が得られなかった。肩甲下筋腱上部は腱板疎部を形成し、内旋と外転という異なる作用の間に存在するため、柔軟性が要求されると推察された。また、上腕二頭筋長頭腱におけるPulley systemを構成しているため、術後瘢痕形成による柔軟性低下により疼痛が生じたと考えた。また、内外旋筋バランスの破綻によりForce couple形成不良となったことも、運動時痛が残存した要因であったと推察された。このため、術後早期はリラクゼーション肢位の確保と、早期より肩関節外旋に配慮しながら愛護的な肩関節可動練習の必要があり、術後の時期に応じた内外旋筋バランスの改善が重要であると考えられた。
【まとめ】
 肩甲下筋腱単独断裂症例を報告した。本症例は術後疼痛コントロールが困難であり、治療展開に難渋した。早期より積極的に疼痛コントロールを図り、術後瘢痕部の柔軟性改善と内外旋筋バランスの改善が重要であると考えられた。
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© 2009 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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