九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第31回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 120
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行動障害を呈した脳卒中患者への応用行動分析にもとづく作業療法介入
*川野 志起松尾 理恵中山 浩介矢川 愛子新垣 真子田口 香理
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キーワード: 脳卒中, 問題行動, 行動変容
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抄録

【はじめに】
 脳損傷に起因する常同行為や脱抑制、易怒性などの行動障害は、リハビリテーション(以下、リハ)や社会参加の阻害因子となることが報告されている。今回、脳梗塞発症後に頻回なナースコール(以下、NC)や離床拒否、暴言といった行動障害を呈し、リハ実施や離床に難渋した症例を経験した。本症例に対し、不適応な行動が減少し、適応的な療養生活が送れるようになることを目的に、応用行動分析にもとづく作業療法介入を行った。
【症例紹介】
 症例:50代、男性、右利き(独身、発症前から失業中)。診断名:脳梗塞。第2病日よりA病院にてリハ開始され、第46病日リハ目的で当院入院。CT所見では、右大脳半球深部境界領域に梗塞巣を認めた。当院入院時、GCS:E4V4M6、BRS:ll-l-II、MMSE:6/30。全般的な認知機能の低下が見られ、左半側空間無視、注意障害、記憶障害、情動障害を認めた。行動障害として、無目的なNCが多く、臥床傾向が強く離床時に易怒的な反応を示した。生活歴としては、発症まで喫煙(60本/日)、ジャズ音楽鑑賞が趣味であった。
【方法と経過】
 効果的な介入方法を検討するためにシングルケースデザイン(AB法)を用い、行動障害(NCへの執着行動、臥床傾向の強さ)の指標としてNC生起回数を記録した。介入に先立ち、ベースライン期(第71病日~第73病日)を設けた。ベースライン期のNC生起回数は平均85.7±36.0回であった。第77病日から介入を開始し、第1介入期(第77病日~第90病日)では、ボイスレコーダーに家族の声を吹き込んで好きなときに聞けるように環境調整を行った。結果、一時的に減少したが、回数自体は依然として多く、行動上の変化も見られなかった。そこで、第2介入期(第99病日~第111病日)では、症例の生活歴をもとに、禁煙パイポやコーヒー、ジャズ音楽を呈示し、「カフェ」という作業活動として作業療法で実施した。また、離床活動の一環として「カフェ」を作業療法以外の時間でも行うようにした。
【結果】
 NC生起回数は平均15.2±9.2回と大きく減少した。また、観察からリハ誘導時や離床時の拒否、暴言などといった行動は見られなくなり、「カフェ」の時間以外でも一人でテレビを見たり、ナースセンターで穏やかに過ごせるようになり、離床時間が延長した。
【考察】
 生活歴に根ざした「カフェ」という作業活動により、スムーズな離床が可能となり、病棟でも穏やかに過ごせるようになった結果、臥床時間が短縮し、NC生起回数が減少したと考える。このことから、応用行動分析にもとづく作業療法介入は本症例のNCへの執着行動および離床拒否、暴言といった行動障害に有効だったと考える。
 なお、この報告を作成、発表するにあたってはプライバシー保護に努め、また患者家族への十分な説明を行い、同意を得た。

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