九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第31回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 172
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重度感覚障害を呈した全盲の片麻痺患者への一考察
~固有感覚アプローチを行って~
*高山 佳子
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抄録
【はじめに】
 感覚情報に異常が生じると姿勢制御に混乱が生じ、姿勢保持・運動遂行に環境適応する人の平衡機構に影響を与えると言われている。今回、脳出血後3週間経過、重度感覚鈍麻を呈した全盲の症例に対し、固有感覚アプローチを行った結果、実用歩行獲得に至ったので考察を加えここに報告する。
【症例紹介】
60代女性、主婦 診断名:左基底核出血(H20.2.14発症) 病前ADL:全て自立。買い物以外の家事全般を行い、外出時は娘が手を引き引率する。主訴:一人でトイレに行きたい。ふらつかず歩きたい。
【初期評価】
Brunnstrom stage:右上下肢V、感覚:足部表在覚は軽度(4/5)、痛覚・深部覚は重度鈍麻(1/5) modefait Ashworth sale(以下MAS):膝伸展1、足背屈1+ 膝蓋腱反射:++ Berg Balance Scale(以下BBS)24点 FIM 93点。静止立位は右膝ロッキングし、全身の筋緊張が高い。歩行は右後方より軽介助。立脚初期は足部内反し床に足底を打ちつける。立脚中期は膝過伸展し、股関節伸展不十分。遊脚期に体幹左側屈し下肢を振り出すため非麻痺側過支持となる。体幹の回旋が減少し側方動揺が強い。10m歩行20秒 6MD280m。
【方法】
1)歩行とADLを中心としたアプローチを2週間実施。その後、2)固有感覚アプローチとして、a.バランスボールやストレッチポールを用いての足関節運動。立位で膝屈曲しての股関節運動。b.両膝角度30・60°で調節しOKC肢位と、スクワット様にCKC肢位で膝屈伸運動する内容を重点的に2週間実施。(1)(2)の各効果を感覚、筋緊張、10m歩行、6MD、BBS、歩容面で比較検討した。
【結果】
感覚:足部表在覚は軽度(4/5)、痛覚・深部覚は中等度鈍麻(3/5) MAS:膝伸展0、足背屈1 膝蓋腱反射:+ BBS:47点 FIM:112点と数値的に改善傾向を示した。歩容は立脚期の踵接地可能となり、下腿前傾することで前方への推進が向上、体幹動揺は減少した。10m歩行12秒 6MD350m。自宅内伝い歩き自立、屋外は左手引きの最小介助となり、H20年5月自宅復帰。
【考察】
 本症例の歩行は麻痺側足部の不十分な感覚入力により下肢の分離運動が見られず、側方への体幹動揺からバランス低下を招き、屋内歩行自立が困難であった。地神らによると『メカノレセプター情報を遮断した研究は歩行時の筋活動や身体傾斜が減少しバランス低下する一方、足部は視覚代償できない姿勢調節情報がある』と報告されており、全盲である本症例に感覚入力訓練は有用と考え、固有感覚アプローチを実施した。結果、体幹と股関節の可動性が改善し、体幹動揺が減少したことで歩容とバランスの改善と歩行スピードの向上が得られ、実用歩行の獲得に至ったと考え られる。
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© 2009 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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