九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第31回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 171
会議情報

パーキンソン病患者の日内変動の緩和を目指して
~笑顔でお化粧~
*橋口 鮎美生駒 英長石田 治久早川 武志百田 昌史田尻 香織毛利 誠本江 篤規高木 桂子水田 聡美
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抄録
【はじめに】
 パーキンソン病(PD)では緩徐進行性の病態を呈し、罹病期間が長期にわたることで薬物療法の効果だけでは補足出来ない部分も多い。今回、Hoehn&yahr stage5の症例に好きな化粧をすることで日内変動による症状を緩和し、ADL上の変化が現れたのでここに報告する。
【症例紹介】
 70歳代女性、13年前に振戦・固縮が出現し当院受診にてPDと診断。その頃より外来リハビリ開始となる。その後自宅での転倒が多く、在宅での介護が困難となり5年前に当院に入院となる。病初期はお洒落で整容には特に気を遣われる方であった。
【作業療法評価】
 Hoehn&yahr stage5、UPDRS 88点、MMSE 15点、Barthel index 25点(ADL全般に中等度~全介助)日内変動グラフ:毎食前にwearing-off期が出現。VASスケール:朝食前は4/10、昼食前は測定不可、夕食前は4/10。特に昼食前の30分は振戦、無動、幻覚症状が強く食事中も介助を要する時がある。
【介入方法】
 昼食前はwearing-off期が強く、食事中にも振戦・無動・すくみ症状が出現する。そのため、昼食前に症例が好きな化粧を手渡し鏡を設置する。また、その後の食事動作の時間とVASスケールを計測する。
【結果】
 食事動作時間は、アプローチ実施前が42分、実施後は26分。VASスケールは、アプローチ実施前は測定不可、実施後は7/10。客観的指標として、化粧を行うことで自発言語が増え、上肢操作におけるリーチ速度が徐々に向上した。鏡を見ながら行うことで顔面の表情が緩み笑顔が多く見られた。また、その後の食事では、すくみもなく自力摂取で行えた。
【考察】
 本症例はPDを発症してから10年以上経過しており、出来るADLも徐々に低下し自発的な随意運動も少なくなってきている。それに伴い、自発言語量の低下や精神の無動により症例が何を望み何をしたいのか聴取することが困難となってきた。しかしPDでは、昔馴染みのある作業ではドーパミン不足の影響を受けにくく、比較的スムーズに動作が行えるという特徴がある。今回はその特徴を活かし症例の馴染みのある作業の化粧を行う事により、昼食前のwearing-off期が緩和出来たのではないかと考える。柴によればPDでは外的視覚刺激による運動前野系の機能は保たれているため、外発性随意運動は容易に遂行出来るとしている。化粧をするにあたり鏡を設置したが、この事が外的視覚刺激による相乗効果としてもたらしたと考える。
 今回の症例を通して、普段は見ることの出来ない表情を観察出来、残存能力を引き出しいく作業の重要性を感じることが出来た。PDの日内変動によるoff期では、身体のみならず精神的な苦痛を伴う。その為PDのリハビリテーションでは、個々の日内変動を把握し、適切な刺激及び環境設定を整えることが重要であると考える。
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© 2009 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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