九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第31回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 188
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手指屈筋腱修復術後早期運動療法例の再断裂の経験
*野中 信宏田崎 和幸山田 玄太坂本 竜弥油井 栄樹貝田 英二宮崎 洋一
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抄録
【はじめに】
 手指腱修復術後の早期運動療法の成功例は多くの施設で報告されている.しかしながら,腱癒合状態が弱い術後早期の腱滑動は再断裂の危険性があり,諸家の報告の中でも少ないながら散見する.今回,腱再断裂再縫合術1例を経験したので経過と予後を紹介し,その原因と影響を考察して報告する.
【症例と術中所見】
 本報告に承諾を得た47歳の男性で職は警備員.割れた茶碗にて右手を受傷.受傷部位は屈筋腱ZoneにてIII.断裂していた浅・深指屈筋腱は横手根靭帯切離して近位断端を同定し,両屈筋腱とも吉津法にて縫合した.次に断裂していた中指尺側の血管,神経を各端々縫合した.
【術後セラピィと経過】
 術後2日目から指他動屈曲位を保持する自動屈曲運動とPIP・DIP単関節の他動伸展運動を中心に1日4セット早期運動療法を行った.術後3週時に手関節中間位,MP関節60度屈曲位のスプリント内にて指自動運動を開始したところ指自動伸展から自動屈曲時にプツと音がして中指自動屈曲不能となった.浅・深指両屈筋腱とも再断裂しており,2日後に吉津法にて再縫合した.医師と相談後,再縫合術後3週間は他指の他動運動と中指の他動屈曲運動のみ行った.3週時のTFMは190度で中指屈筋腱癒着と中指各関節の屈曲拘縮が強固に存在していた.5週時から中指PIP・DIP各関節他動伸展運動を開始し,特に強固な屈曲拘縮を呈していたPIP関節は動的に他動伸展するスプリントを装着させた.6週時のTAMは60度しかなくこの時期から指屈筋腱を伸張させた.8週時でTAMは124度,3ヶ月のTAMでようやく200度を超えた.腱癒着はまだ残存していたが再縫合術後3ヶ月半でほぼ支障がなくなり仕事復帰した.
【考察】
 一般的に腱縫合術後3週時は自動屈曲運動が可能な時期である.しかし,今回の再断裂は3週時に行った指伸展位から指自動屈曲運動にて起こった.つまり,その運動に耐えうる腱癒合状態ではなかったと思われ,それまでに腱縫合部のgapを形成していた可能性が考えられる.運動としては指他動屈曲位での自動屈曲運動を継続すべきであった.再縫合術後のセラピィでは,1治癒中途での再手術は創傷の再燃にて,関節軟部組織や腱滑動周囲組織のより増悪した環境をつくりやすい.2最初の腱縫合術からさらに再縫合術後の安静・固定にて,より長期の固定を余儀なくされる.3セラピスト心理として縫合腱伸張運動を遅延させやすい.4症例心理も運動に対する恐怖心が増加する.1~4の要因からより強固な関節拘縮,腱癒着を呈することとなる.結果,改善訓練に多大な時間を必要とし社会復帰時期が著しく延びる.今回はZoneIIIという部位でもあり訓練にて支障ない程度には改善できたが,改善が滞ると拘縮解離術も必要になっていた.早期運動療法の積極的価値は大きいが,再断裂がどのような影響を及ぼすかを今回考えさせられ,より安全な方法の確立に努めたい.
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© 2009 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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