抄録
【はじめに】
椅子や台から立ち上がりは,日常の生活の中でも頻度が高く,ADL自立に影響する動作である.これまで,我々は,手すり支持椅子立ち上がり(HSCS)テストと下肢筋力,歩行能力およびADL評価のBarthel Indexと関連することを報告し,HSCS-30テストを3ヵ月に1回行われる通所リハの運動機能評価の1項目にしている.本研究では,通所リハ利用者を対象に,HSCS-30テストの経時的変化,下肢筋力および身体パフォーマンステストの変化との関連について調査することを目的とした.
【対象・方法】
対象は,6ヵ月前後でHSCS-30テスト,下肢筋力および身体パフォーマンステストを測定した通所リハ利用者32名(男性17名,女性15名),平均年齢71.7±12.4歳であった.事前に,すべての対象者に口頭で本研究の目的と内容を説明し,同意を得た.HSCS-30テストは,42cmの高さの椅子に座って手すりを支持し,30秒間の立ち上がり回数を測定した.下肢筋力は等尺性膝伸展力を測定し,身体パフォーマンステストとして,開眼片脚立ち時間,Timed up & Go(TUG)テスト,5m歩行時間を測定した.6ヵ月前後のHSCS-30,下肢筋力および身体パフォーマンステストの比較は,対応のあるt検定とWilcoxon検定を用いた.6ヵ月前のHSCS-30テストと下肢筋力および身体パフォーマンステストとの関係,6ヵ月前後の変化量の関係は,Spearman順位相関を用いて分析した.
【結果】
6ヵ月後,HSCS-30テスト,TUGテストおよび5m歩行時間は有意な増加がみられなかったが,下肢筋力と開眼片脚立ち時間は有意な増加がみられた(p<0.05).また,すべての対象者のうちHSCS-30テストに維持・向上がみられたのは18名,低下がみられたのは14名であった.6ヵ月前のHSCS-30テストは,下肢筋力(r=0.65,p<0.01),開眼片脚立ち時間(r=0.44,p<0.05)およびTUGテスト(r=-0.37,p<0.05)と有意な相関があり,有意でないものの5m歩行時間とボーダーラインの相関があった(r=-0.34,p=0.06).6ヵ月前後のHSCS-30テスト変化量は,下肢筋力変化量と有意な相関がなかったが,TUGテスト変化量(r=-0.58,p<0.01)および5m歩行時間変化量(r=-0.57,p<0.01)と有意な相関があった.
【考察】
本研究の結果,HSCS-30テストは,歩行能力の変化を推定することが可能な身体パフォーマンステストとなる可能性が示された.HSCS-30テストは,手すりを支持して椅子から立ち上がって再び座るという簡単な動作の反復であり,バランスを崩して転倒するリスクも低く,在宅など狭い空間で測定できる有用な身体パフォーマンステストになると考えられる.